f が可逆ならば函数
写像 f が一対一でない場合にも、f の偏逆写像もしくは逆部分写像 (partial inverse) を始域を制限することによって定義することができる。たとえば函数
このような多価逆函数を f の全逆函数もしくは完全逆写像 (full inverse) などと呼び、その(√x や −√x のような)部分のことを枝もしくは分枝 (branches) と呼ぶ場合もある。(例えば正の平方根のような)多価函数の最も重要な枝は主枝 (principal branch) といい、逆函数の y における値で主枝に属するものを f −1 (y) の主値 (principal value) と呼ぶ。
実数直線上の連続函数に対して、極値の隣り合う対にそれぞれ、その全逆函数の一つの(連続な)枝が対応する。例えば、極大値と極小値をもつ三次函数の逆函数は、三つの分枝を持つ。
こういったことへの配慮は、特に三角函数の逆函数を定義する際には重要である。例えば、正弦函数は任意の実数に対して
を満たす(もっと一般に任煮の整数 n に対して sin(x + 2πn) = sin(x) を満たす)から一対一ではない。しかし、区間 [−π/2, π/2] 上で正弦函数は一対一であり、対応する偏逆函数は逆正弦函数 arcsine と呼ばれる。これは(全)逆正弦函数の主枝であると考えられ、そたがってこの逆函数の主値は常に −π⁄2 と π⁄2 の間に値を持つ。
函数 | 通常用いられる主値の範囲 |
---|---|
arc sin | −π/2 ≤ arc sin(x) ≤ π/2 |
arc cos | 0 ≤ arc cos(x) ≤ π |
arc tan | −π/2 < arc tan(x) < π/2 |
arc cot | 0 < arc cot(x) < π |
arc sec | 0 ≤ arc sec(x) < π |
arc csc | −π/2 ≤ arc csc(x) < π/2 |
写像 f: X → Y に対し、f の左逆写像 (left inverse) あるいは引込み (retract) とは、
を満たす写像 g: Y → X のことをいう。つまり、X の各元 x に対して g は
を満たす。したがって g は f の値域上では f の逆写像と一致しなければならないが、値域に入らない Y の元に対してはどのような値をとろうとも支障ない。写像 f が左逆写像をもつならば f は単射であることが次のように証明できる。写像 f: X → Y に対し、 g: Y → X を f の左逆写像とする。 x, y ∈ X が f(x) = f(y) を満たすとすると、 g(f(x)) = g(f(y)) から idX(x) = idX(y) なので、 x = y. したがって、 f は単射である。
逆に写像 f: X → Y が(空写像ではない)単射ならば、適当な x0 ∈ X を選んで、次のように左逆写像 g: Y → X を構成することができる。
このように古典数学では任意の単射 f は左逆写像を持つことが必要となるが、構成的数学においては偽となり得る。例えば、二元集合から実数直線への包含写像 {0,1} → R の左逆写像は、実数直線から二点集合 {0,1} への引込みを与えるとき既約性に反する[疑問点 ]。
写像 f: X → Y に対し、f の右逆写像 (right inverse) あるいは切断もしくは断面 (section) とは
を満たす写像 h: Y → X のことをいう。つまり h は Y の各元 y に対して
なる条件を満足する。したがって h(y) は f によって y へ写されるような x ならばどのようなものでもよい。写像 f が右逆写像をもつ必要十分な条件は、f が全射となることである(ただし一般には、選択公理が必要となるので、右逆写像を構成的に得ることはできない)。
(証明)写像 f: X → Y に対し、 h: Y → X を f の右逆写像とする。このとき、任意の y ∈ Y に対して x = h(y) とすれば、 f(x) = y となるので f は全射。
逆に写像 f: X → Y を全射とする。すると、任意の y ∈ Y において f の原像 f −1 ({y}) は空ではない。したがって集合族 (f −1 ({y}))y ∈ Y (これは f による X の類別でもある)に対して選択関数 φ : (f −1 ({y}))y ∈ Y → X が定義できる。このとき、 h(y) = φ(f −1 ({y})) は Y から X への写像となっており、 f(h(y)) = y となることから h は f の右逆写像である。∎
左逆写像にも右逆写像にもなっている逆写像は一意でなければならない。同様に、g が f の左逆写像のとき、g は f の右逆写像である場合もあるし、そうでない場合もある。また h が f の右逆写像であるときも、h は必ずしも左逆写像でなくてよい。例えば f: R → [0, ∞) が R の各元 x に対してその平方を与える函数 f(x) = x2 とし、g: [0, ∞) → R を各 x ∈ [0, ∞) に対して正の平方根を与える函数 g(x) = √x とすると、[0, ∞) のどの元 x に対しても f(g(x)) = x が成り立つ。つまり、g は f の右逆函数である。しかし、例えば g(f(−1)) = 1 ≠ −1 であるから、g は f の左逆函数にはなっていない。
f: X → Y を(必ずしも可逆でない)任意の写像とするとき、Y の元 y の原像または逆像が、f によって y に写される X の元全体の成す集合
として定まる。y の原像は、全逆写像による y の像(完全逆像)として考えることができる。
同様に、S を終域 Y の任意の部分集合とすると、S の f による原像が、f によって S へ写される X の元全体からなる集合
として定まる。たとえば、函数 f: R → R; x ↦ x2 を考えると、この函数は既に述べたように可逆ではないが、しかし終域の部分集合に対する原像は定義できて、たとえば
となる。一つの元 y ∈ Y の原像(同じことだが、一元集合 {y} の原像)は、y のファイバー (fiber) と呼ばれることもある。Y が実数全体からなる集合のとき、f −1 は等位集合として言及されることも多い。
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