政府紙幣と銀行券
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/06 05:40 UTC 版)
政府紙幣と銀行券はどちらも強制通用力がある法貨であるという点で混同されることが多いが、本質的に異なる性質を持つものである。前者は政府が財政赤字を補填する目的で発行されるのが一般的であり、裏付けは政府の信用のみであってその発行額は政府の負債にならないのに対し、後者は中央銀行による金融市場取引において発行され、裏付けは対価である中央銀行保有の金融資産に対する信頼であり、その発行は中央銀行の負債勘定に計上される。銀行券とは銀行によって発行された、期日のない約束手形のようなものと見ることも出来る。 政府紙幣は歴史上、フランスのアッシニア、アメリカのグリーンバックス、明治政府の太政官札など様々のものがあり、正貨準備を要しないなど不換紙幣であることが多かった。政府が恣意的に発行できる政府紙幣は供給が過剰になりがちであり、過去に幾度も貨幣価値下落=インフレを引き起こしてきた。近現代の資本主義社会においては、紙幣の発行権は中央銀行に集中せられ、政府から高い独立性を保って物価の安定(通貨価値の安定)を目的とした様々な通貨政策を行うようになっている。 一方で銀行券は本来、銀行が準備した正貨(本位貨幣、金本位制では金貨や金地金)を根拠として発行された一覧払の約束手形であり、銀行が手形を割り引いたり(→手形割引)、債券を購入する代金として支払われ、償還期間を経て銀行に環流した。当初は民間の銀行がそれぞれ各自に銀行券を発行していたが、銀行間の信用格差による経済不安などがあり、次第に一行または数行に集約されるようになってきた。それが「中央銀行」(発券銀行)である。1930年代以降は金兌換が停止された「管理通貨制度」へと移行していくが、その過程では政府の赤字国債を中央銀行が直接引き受けることによって、裏付けのない銀行券が大量に発行され、悪性インフレを引き起こすなどの弊害も見られた。赤字国債の直接引き受けは事実上、政府紙幣と変わりなく、日本では戦争直後のインフレを反省して財政法第5条によって禁止されている。 銀行券の発行量については19世紀の昔から、正貨保有量によって厳しく規制すべきと言う「通貨主義」と正貨にかかわらず自由に発券できるべきとする「銀行主義」の対立があった。日本では1942年公布の旧日本銀行法で、日銀券の発行限度額は大蔵大臣により決定せられ、必要に応じて限外発行が認められることとなっており、金地金、国債、手形などによる同額の発行保証を保有することとなっていたが、1998年の改正日銀法によってそれらの規制も撤廃され、日銀券の発行総量は日本銀行の裁量に委ねられることとなった。一方で2001年の量的緩和に伴い、日銀の国債保有残高は日銀券発行残高を超えてはならないとする「日銀券ルール」も明文化され、マネタリーベースの増大に歯止めをかけていたが、2013年4月、「量的・質的金融緩和」の導入に伴い、そのルールも一時停止が決定した。
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