政府紙幣との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/12 02:57 UTC 版)
2000年代の終わりごろ、日本では「デフレ不況を克服すべし」としてシニョリッジ活用が声高に叫ばれるようになった。つまり政府は不況への対策として、貨幣(硬貨)と同じように、政府紙幣を発行してシニョリッジを活用すべきといったものである。なお、このデフレ対策としての政府貨幣・シニョリッジの有効性の議論と、財政再建への政府紙幣・シニョリッジの有効性の議論とが混同されることがあるが、両者は別物であり区別しなければならない。 多くのシニョリッジ活用論は通貨発行益についての誤解があるか、過剰な期待に基づいている。政府紙幣は国庫の負債であり、無利子国債の発行と同等である。市中が政府紙幣を受容し流通させるのは完全に償還され返済されるという期待があるためであり、インフレーションなどにより減価するなり一部にデフォルトが生じる可能性があれば政府紙幣や無利子国債は流通しない。 一度発行された政府紙幣の回収は困難を極めるのが歴史的教訓であり、安易なシニョリッジ活用を否定するのは金融学の原則である。長期国債などの中央銀行による直接引受は政府紙幣の発行と同等の効果があるが、たとえば日本では財政法第5条により国会の議決を必要とする。国債をいったん市中で発行し日銀が介入オペをおこなうことと、日銀が新発国債を直接引き受けることの金融政策上の違いは重要であり、財政規律に市場制約を課すものである。 通貨発行益 (S) は実質ベースマネーの増分 (⊿M) とインフレ率と一期前の実質ベースマネーの積 (π×M-1) の和であり (S=⊿M+π×M-1)、⊿Mは経済成長などにともなう通貨需要の増大に対応し、π×M-1は「インフレ税」に対応するものである。⊿Mは市中の貨幣需要により上限があり、安定的な経済成長下では貨幣需要は増加するものの、低成長の場合はむしろ減少することがある。政府は一時的な財政支出により通貨需要を増加させることができるが市中の貨幣需要は自律的な保有動機に基づくものであり、経済成長に伴う貨幣需要が増加しない限りベースマネーの水準は元の均衡水準に戻ってしまう。 国宗浩三によれば、通貨発行益の増大を行政府が図った場合、誘惑に負けて巨額の貨幣発行を行うことの経済的帰結は明らかであり、インフレの発生、インフレ率の高騰、それに伴う経済社会の混乱である。またインフレは貨幣需要を減らすため(通貨保有による「課税」を逃れるため)、結局は通貨発行益を減らすことになるとする。一方で、特に開発途上など持続的な経済成長をともなう経済においては、経済の成長に伴う貨幣需要に見合っただけの通貨を追加的に供給することにおいては、通貨発行はインフレの要因にはならず税源としての通貨発行益が期待できるとする。経済にはタダ飯(フリーランチ)は無いのが普通であるが、経済成長に伴う通貨発行益は数少ない例外であり、通貨発行益を主な財源としてあてにするのは大きな間違いであるが、経済成長が続く限り(特に発展途上国にとっては)安定的な補助的財源としては優秀なものだとする。中国の経済構造はこの点で特筆すべきものがあり、中国政府の財政における通貨発行益は非常に高く、GDP比5%を超えている。しかしインフレ税に頼る比率は約3割にすぎず、7割は成長にともなう果実としての通貨発行益である。ただしこれが今後も続くかどうかと言う点については慎重であるべきで、経済システムが成熟するにしたがって貨幣選好は低下し相対的な貨幣発行益は減少する可能性がある。
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