推進剤の供給方式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/08 02:25 UTC 版)
「液体燃料ロケット」の記事における「推進剤の供給方式」の解説
液体燃料ロケットでは高圧の燃焼室へ推進剤を送り込まなくてはならないから、何らかの方法で推進剤に高圧を加えなくてはならない。極めて簡便な手法としては高圧の不活性なガスをタンクに送って推進剤を加圧するガス押し(圧送)式があるが、この方法では高い圧力を得にくいだけでなく推進剤のタンクの強度が必要なため、機体を大型化すると構造体の重量が極端に増加する。そのため、より高性能のエンジンではポンプで推進剤を加圧する方法がとられる。 このときポンプの駆動力を得るにはいくつか方法がある。 例えばV2ロケットでは、ロケットの推進剤の他にポンプの駆動用として過酸化水素と過マンガン酸ナトリウム溶液を搭載しており、両者が混合されて発生する水蒸気がタービンを駆動し、連結された推進剤ターボポンプを駆動した(ヴァルター機関)。この方式では推進剤以外のタンクを必要として構造が煩雑になるという欠点があった。 推進剤の一部を主燃焼室とは別の小型の予燃焼室(プリバーナー)で燃焼させ(予燃という)、その燃焼ガスでタービンを駆動させる方法もある。そのうち駆動後のガスを外部に排気する方法をガス発生器サイクルという。この方法ではターボポンプ駆動分の推進剤が推力にならないため二段燃焼サイクルと比較して比推力は低下するが、予燃系の圧力が低く済むため開発が容易になり、またターボポンプの信頼性向上・運転時間延長が望める。 予燃ガスでターボポンプを駆動する方法のうち、駆動後のガスを主燃焼室に送り込んで燃焼させる方式を二段燃焼サイクルという。プリバーナーで多量の酸化剤に少量の燃料を加えて予燃し、そのガスに主燃焼室で燃料を足して燃焼させる方式を酸化剤リッチといい、逆に予燃で多量の燃料に少量の酸化剤を加える方式を燃料リッチという。酸化剤リッチのほうがターボポンプの出力を上げられる=エンジンの出力を上げられるが、高温かつ酸化性のガスでタービンを駆動するため技術的困難を伴う。またどちらの方式であってもタービン駆動後のガスは主燃焼室内よりも高圧でなければならないため予燃系は非常に高い圧力で動作しなければならない。さらにターボポンプで推進剤の漏洩が発生した場合、燃料が酸化剤リッチのガスに接触する、または酸化剤が燃料リッチのガスに接触すると直接的に事故の原因になりうる。そのため予燃系を2系統設けて、酸化剤リッチのガスで酸化剤のターボポンプを、燃料リッチのガスで燃料のターボポンプを駆動するようにし安全性を高めたフル・フロー・二段燃焼サイクル (Full Flow Staged Combustion Cycle: FFSCC) が開発されている。 高温の燃焼室やノズルを冷却する手法のひとつに再生冷却があるが、この時発生する推進剤のガスを用いてターボポンプを駆動する方法をエキスパンダーサイクルという。ガス発生器サイクルや二段燃焼サイクルと比べてターボポンプの駆動ガスがより低温であり、また多数の冷却配管をガス発生器として用いるため推進剤の質による事故を起こしにくく信頼性が高い。ターボポンプ駆動に使用した推進剤を燃焼室に送り込むフルエキスパンダーサイクルでは燃焼圧力を上げるとポンプタービンの背圧が上がって駆動効率が落ちるため推力向上に限界があり、その解決策として推進剤の一部のみをターボポンプの駆動に使用して駆動後は外部に排気してしまうエキスパンダーブリードサイクルがある。またエンジンが大型化すると再生冷却では推進剤を温めきれなくなる(加熱面積はサイズ比の2乗に比例するが送り込まれる推進剤の量は3乗に比例する)ので、その場合はポンプで送った推進剤の一部を再生冷却に用いずに直接燃焼室に送るバイパスエキスパンダーサイクルの手法がとられることがある。 2017年にはポンプを電動機で駆動する方式のエンジンがロケットに搭載され飛行している。
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