成因論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/16 09:07 UTC 版)
クレーターの成因については、様々な説が唱えられた。1787年にウィリアム・ハーシェルはクレーターは火山の火口であるという論文を発表した。それに対し、1829年にフランツ・フォン・パウラ・グルイテュイゼン(Franz von Paula Gruithisen)は、クレーターは天体の衝突によって生じたという説を発表した。 当初は火山説の方が有利であった。これは、 月のクレーターはほとんどが円形であるが、泥に石などを衝突させる実験などでは真上からの衝突で無い限り楕円形のクレーターしかできないこと。 月の海(いわゆるうさぎ模様の部分)にはクレーターがあまり存在せず、分布に著しい地域性があること。これは地球の火山帯に対応していると考えられた。 クレーターの重なり方が大きなクレーターの上に小さなクレーターが重なっているものばかりであり、これは徐々に月の内部が冷却して火山活動が弱まっていった結果として説明しやすい。 などが理由としてあげられる。 1960年頃から、地球のクレーターで隕石の衝突を裏付ける高圧で変成された岩石が発見されたり、アポロ計画での月面で採取された試料の分析が行われたり、より正確な衝突条件を反映した高速衝突実験が行われて、衝突説を支持する結果が多く得られた。現在では月のクレーターの大部分は衝突によって生じたものと考えられている。 上記の火山説を支持する証拠に対しては 当時の衝突実験では衝突させた石の速度は、隕石の月面に対する相対速度(数十km/sに達する)よりもはるかに遅く、実際に起こっている衝突を反映しているものとは言えない。高速衝突実験においては衝突時の衝撃波で衝突物の直径の10倍以上の範囲の地面が掘削されてクレーターは円形となることが分かっている。楕円形のクレーターは入射角が10度以下になるような限られた場合しかできない。 アポロ計画で採取された岩石の年代測定の結果、月の海ができた時期は衝突が多数起きた時代よりも新しい(月の海も参照のこと)。 重なり方の傾向は、小さなクレーターの上に大きなクレーターを作る衝突が起こると衝突による地殻変動が周辺にも及び小さなクレーターの構造は完全に破壊されてしまうためと考えても説明可能。 と反論できる。 衝突説を支持する証拠としては以下のようなものがある。 アポロ計画で採取されたクレーター周辺の石から高圧で変成された岩石が見つかっている。 アポロ計画で採取された石から直径1mm以下のクレーターが見つかっている。 大きなクレーターでは月全体に噴出物が撒き散らされているが、月の質量ではそのような規模の爆発を起こすだけの火山を生成できない。 月の岩石から生成する溶岩の粘性は地球上のそれに比べて著しく低いために、火口には明瞭な盛り上がった縁ができない。(なお、月には少数ながらも縁の盛り上がりの無いクレーターがあり、これらは溶岩の噴出で生じたものと考えられている) クレーターが円形であるにもかかわらず、一方向だけに光条が延びる現象は斜め方向からの高速衝突実験で確認されている。 月のクレーターの直径と深さの間には一定の関係式が成立する。地球上の衝突で作られたクレーターでも同じ式が成り立つ。
※この「成因論」の解説は、「クレーター」の解説の一部です。
「成因論」を含む「クレーター」の記事については、「クレーター」の概要を参照ください。
- 成因論のページへのリンク