愛を求めた女帝
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 09:47 UTC 版)
急進的な宗教政策以上にヘリオガバルス帝を有名にしたのは、極めて本能的な性生活に関する逸話である。そもそもヘリオガバルスは、正式な結婚生活すら4回の離婚と5回の「結婚」を繰り返しているのである。 「ウェスタの処女」セウェラとよりを戻し、4度目の結婚をした皇帝であったが、その年のうちにまたも離婚した。今度は、小アジア出身のカリア人奴隷で、男性であるヒエロクレスの「妻」となることを宣言。これが、5度目の「結婚」であった。さらに『ローマ皇帝群像』によれば同じく男性の愛人である戦車選手ゾティクスとも結婚したと伝えられている。 …皇帝は、自らは女性であると主張し、公共浴場へ行っては女湯に入って、当然の如く女性と会話をし、一緒に脱毛を施していたという。また、怪しげな者たちをベッドルームに連れ込んで淫行を繰り返した。密偵を放ち、ペニスの巨大な男性や容姿の整った男性を探させて宮廷に連れて来させ、情事を楽しんだ。皇帝は女性として振る舞いながら全裸になり、片手を胸に片手を陰部に当ててひざまずき、哀れみを誘うように媚びて頬を擦り付け、男性に向かって尻を突き出して腰を前後運動させて顔を赤らめていたという。 猟奇的な逸話としては、神殿内で飼育している猛獣に浮気した男性の男性器を切り落としてエサとして与えたというものも伝わっている。『皇帝列伝』は、以下のように伝える。 …皇帝は当時では珍しく、自分の全身を女性のように脱毛していた。いかにも健康そうにみえ、男性に最大限の肉欲を起こさせる身体でいることこそ、最上の幸福であると考えていたからだ。 元老院議員として宮殿に出入りしていたカッシウス・ディオはヘリオガバルス帝の異質な情事を記録し、女性の姿で男性と交わっていたと実際にその現場を見たことを記録している。カッシウスは、以下のように伝える。 …皇帝は自分の性器を切り落として性別適合手術を施そうと考えていた。そうした考えに到るのも内面(心)が女性だったからだ。しかし彼女が実際に受ける事になった手術は割礼だった。これは太陽神の司祭として必要なことの一つだったのだ。その悔しさからか彼は、周囲の男性の多くに同じことをさせた。 カッシウスはまた、「皇帝の愛情欲求は日に日に増し、いつしか酒場に入り浸る習慣を持つようになり、一般市民の女性と酒を酌み交わしながら寂しそうに涙を流し、男を見つけるや化粧と金髪の鬘をつけて売春に耽溺した」と叙述してこれを非難し、皇帝が最終的に帝国の中枢である宮殿に男を呼び込んで売春宿にまでしていたと記録している。 …遂に皇帝は宮殿までも自らの情事の現場とした。宮殿の一室に性行為用の場所を用意して、そこを訪れる男に売春婦のようにその身を売った。ヘリオガバルスは売春婦がそうするように女性用の下着をつけて部屋の前に立ち、カーテンをつかんで男を待った。そして男が通りかかると哀れみを誘うような柔らかい声で甘えるのだった。 ヘロディアヌスもこの噂について言及しており、ヘリオガバルス帝は顔を化粧することにより、こうした行為に相応しい美麗な容貌を持つようになっていたという。 皇帝は全裸で廷臣や警護兵を甘い声で誘い、売春する一方、金髪の奴隷ヒエロクレスに対しては「妻」として付き従い尽くした。ヒエロクレスもヘリオガバルスを妻と愛していたが、ヘリオガバルスは他の男とも関係を持っていた。それを知ったヒエロクレスは「妻」である皇帝の不貞をなじり、罵倒し、しばしば殴打におよんだ。そして、ヘリオガバルスは旦那であるヒエロクレスが自身を妻として愛し、嫉妬し、束縛している事に喜んだ。また、性別適合手術を行える医師を高報酬で募集していたともいわれている。このことからヘリオガバルス帝のセクシャリティについて、これを同性愛や両性愛というより、トランスジェンダーの一種として考える論者が多い。
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