心理学的理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/10 14:23 UTC 版)
心理学的な理論では家族内のあらゆる性的表現を規制するルールとしてインセスト・タブーを捉える。この考えは性にまつわるあらゆる対立や闘争をなくすため、子供の社会化を促すため、核家族の解体と新しい家族を製造するためにタブーが存在すると考える。この理論を早い時期に唱えたのはジークムント・フロイトである。基盤となる人類学的証拠は弱いものの、フロイトは著書『トーテムとタブー』において、最初の家父長が息子に殺された後、その後の争いを防ぐためにタブーが出来上がったのではないかという学説を提唱した。元々はフロイトの高弟であったオットー・ランクは文学書『文学作品と伝説における近親相姦モチーフ』で繰り返し禁忌はもっぱら社会的な起源だと語っている。 無論、実際にはフロイトの言うような事象が歴史的に起こったという事実は存在せず、近親相姦の禁止と社会の維持もしくは外婚制とを関連付けるという観点からすればフロイトと共有する見解も持つはずのレヴィ=ストロースですら、フロイトは文化の発端ではなくその現在を語っているに過ぎないとフロイトの学説を批判した。だが、近親相姦タブーが家庭内での男性の争いを避けるためではないかという説の中核は受け入れられた。タルコット・パーソンズは、親子の間で官能的愛着を形成する必要は人間形成や自己感を確立するため、また失望や挫折感を乗り越えるために必要とされ、性欲の掟は子供が親から分離する必要や性欲より社会を重視すべしという能力のためと主張した。 心理学的な理論は核家族限定であり、親族に対するタブー適用の説明には不適切という側面があるものの、現代社会におけるインセスト・タブーのありようについて説明しやすいという利点がある。生物学的理論と違い、家庭内でのあらゆる性的行為が禁止される理由が説明できるし、血のつながりのない家族も性行為が禁じられる理由も説明できるし、出産のコントロールなどで遺伝学的問題が軽視される産業社会になってもインセスト・タブーが残っている理由も説明できるし、心理的欲望ともなる一方で心理的拒絶も生み出すという側面がある点も説明できる。
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