影響を受けた先人
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/22 19:54 UTC 版)
グロティウスが海洋の自由や通商の自由を述べるにあたって論拠としたのは、 普遍的人類社会の思想である。つまり、すべての人間は人間の本質に従い普遍的な社会を構成し、その社会ではすべての人に当てはまる共通の法(万民法)が存在し、その法によりすべての人に基本的な権利が保障される、という考え方である。『自由海論』に示されたグロティウスのこうした思想に影響を与えた先駆者として、まずフランシスコ・デ・ビトリアが挙げられる。ビトリアは著書『インディオについての特別講義』(Relectio de Indis)の中で、普遍的人類社会の思想を背景にすべての人は自由に交通して他の民族と交際する基本的な権利を有することを述べた。ビトリアが主として説いたのは交通権の理論であって海洋の自由についてはそれほど詳しく述べていたわけではなかったが、グロティウスよりも以前に海洋の自由を説いた代表的な学者のひとりであり、実際に『自由海論』の各所でビトリアの説の引用がみられる。また『自由海論』では、そのビトリアの影響を受けたスペインの学者フェルディナンド・バスケスの言葉も詳細に引用している。特に第7章では、普遍的人類社会に共通の万民法についてバスケスの言葉をそのまま引用している。ただしバスケスの思想はビトリアの思想をそのまま受け継いだものであり、基本的には同一のものである。すでに述べたように『自由海論』はスペインとポルトガルによる大洋領有の主張に対する反論として著わされたものであったが、スペインに反論するためにわざわざスペイン人の論説を持ち出したと見ることもできる。また『自由海論』はイタリアのアルベリクス・ゲンティリスの影響も強く受けている。例えば『自由海論』第1章は、ゲンティリスの著書『戦争の法』(De jure belli)の第1巻第19章についてほとんどそのまま述べたものともいわれる。グロティウスがゲンティリスから受けた影響は『自由海論』だけでなく、グロティウスのもう一つの代表的著書『戦争と平和の法』(De jure belli ac pacis)にもみられる。また航行や通商の自由の原則は、こうしたヨーロッパの論者だけでなく、インド洋や他のアジア諸国の間でも古くから存在した。紀元1世紀ごろからローマとインド洋諸国は海上通商をしており、西ヨーロッパ諸国のアジア進出以前からすでに海洋や通商の自由の原則は慣習法となっていた。13世紀末のマカッサルやマラッカの海事法ではこうした慣習法の法典化もなされている。グロティウスは『自由海論』の執筆にあたってこうしたアジアの伝統も参考にしたといわれる。
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