形態・生態的特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/14 08:39 UTC 版)
「ステラーカイギュウ」の記事における「形態・生態的特徴」の解説
ステラーカイギュウは、体長は7メートルを超え、一説には最大8.5メートルに達し、体重は5-12トンあったと言われている。現生カイギュウ類としては最大だった。おそらくほとんど潜水できず、丸く隆起した背中の上部を、常に転覆したボートの船底のように水の外にのぞかせた状態で漂っていた。島の周辺の浅い海に、群れを作って暮らしていた。潮に乗って海岸の浅瀬に集まり、コンブなどの褐藻類を食べた。冬になって流氷が海岸を埋めつくすと、絶食状態になり、脂肪が失われてやせ細った。このときのステラーカイギュウは、皮膚の下の骨が透けて見えるほどだったという。 氷が流れ去るまで沖合いにいて、春になって氷がなくなると、再び海藻を食べ始るが、この春の初めに繁殖活動に入り、1年以上の妊娠期間を経て、1子を産んだと思われる。子どもたちは群れの中央で育てられ、つがいの絆はたいへん強かった、とシュテラーは記している。 ステラーカイギュウは、体が巨大なことのほかにも、暖海性のジュゴンやマナティーとは異なった特徴をいくつかもつ。際立った特徴の1つとして、ステラーカイギュウの成獣は、歯が退化して、ほとんどなくなっていた。彼らは、上顎と下顎の先に、登山靴の裏側のように細かい溝のついた固い角質の、嘴のような板をもち、よく動く唇とこの嘴を使って、岩に付いたコンブなどを噛みちぎって食べていた。 現存する暖海性のカイギュウ類と同様、ステラーカイギュウも、コンブを口の中で噛んだりすりつぶすことは、あまりしていなかったと思われる。実際、シュテラーによれば、体の中には非常に大きな腸が内蔵されていたという。あまり噛み砕かれていない食べ物を完全に消化するために、そのような腸が必要だったのだろう。 また、ステラーカイギュウのひれ状になった前足は、指の骨が完全に退化してなくなっていた。[要検証 – ノート]近縁種のジュゴンも、アザラシ類も、クジラでさえ、5列に並んだ指の骨をもっており、このことは、ステラーカイギュウが非常に高い水準で海中生活に適応していたことを示している。この前足は、体の中心に向かってかぎ型に曲がっており、骨格の構造から、彼らはこの前足を前後に動かして、岩に付いた藻をはぎ取ったり、水底を歩いたりしていたと考えられる。多くの個体の水に浸かった部分の皮膚には、数多くの小さな甲殻類が寄生しており、解剖した腸の中には線虫が寄生していたという。 ステラーカイギュウの頭部は体に比べて小さく、首が短くて、胴体との境界はあまりはっきりしていなかった。目は小さく、口の周りには太い毛が生えていた。外から見た耳は豆粒大の大きさしかなく、あまり目立たなかったが、内耳の構造は発達しており、音はよく聞こえていたと考えられる。首の構造は非常に柔軟で、あまり体を動かさなくても広い範囲の餌を食べることができたと考えられる。 尾は大きく平らで、先はクジラの尾のように二股に分かれていた。その体を包む黒く丈夫な皮膚は、数多くのしわが刻まれ、厚さは2.5センチメートルもあり、木の皮のようだった。皮膚の下の脂肪層は、10-20センチ以上あった。これは寒さから身を守るとともに、氷や岩で体に擦り傷が付くのを防いでいたと思われる。 発見当時、ステラーカイギュウはすでに、コマンドル諸島などの限られた地域にしか生息していなかったが、10万年前の化石をみると、かつては日本沿岸からアメリカのカリフォルニア州あたりまで分布していたことがわかる。その後アリューシャンの島々にしか棲まなくなったのは気候の変化のためだが、1万2,000-1万4,000年前ごろにこの地域に人間が定住するようになったことも、部分的に影響しているかもしれない。
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