寄宿舎生活の自治
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第94条(寄宿舎生活の自治) 使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。 使用者は、寮長、室長その他寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉してはならない。 寄宿舎生活は労働関係とは別個の私生活であり、これに使用者が干渉することは私生活の自由を侵すものであって、本条の運用にあたってはこの趣旨によらなければならない(昭和22年9月13日発基17号)。「寄宿舎」とは、常態として相当人数の労働者が宿泊し、共同生活の実態を備えるものをいう。「事業に附属する」とは、事業経営の必要上その一部として設けられているような事業との関連をもつことをいう。この二つの条件を充たすものが、事業附属寄宿舎として労働基準法第10章の適用を受ける(昭和23年3月30日基発508号)。社宅・住込・福利厚生施設として設けられているアパート式寄宿舎は、「事業附属寄宿舎」に含まれない。 「事業附属性」については、「宿泊している労働者について、労務管理上共同生活が要請されているか否か」「事業場内又はその付近にあるか否か」といった基準から総合的に判断される。事業との関連が強い場合には寄宿舎として認めようとする趣旨と考えられる(判例として、日之出屋商店事件、札幌高判昭和34年10月13日)。もっとも学説の多くは、事業との関連がわずかでもあれば「事業附属性」が肯定されるとする。 1項の規定を受けて、事業附属寄宿舎規程第4条が具体的に定める。これらは、寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵す行為の例示であり、労働者の私生活の自由を侵す行為がこの3つにとどまるものでないことは勿論である(昭和30年2月25日基発104号)。建設業附属寄宿舎規程第5条にも同趣旨の規定がある。1項違反に対する罰則は設けられていないが、同項違反は公序良俗違反として無効になると考えられる。 事業附属寄宿舎規程第4条 使用者は、次の各号に掲げる行為等寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵す行為をしてはならない。外出又は外泊について使用者の承認を受けさせること。 教育、娯楽その他の行事に参加を強制すること。 共同の利益を害する場所及び時間を除き、面会の自由を制限すること。 2項の「役員の選任に干渉してはならない」とは、役員の選任に関する一切の事項に干渉してはならない趣旨である(昭和23年5月1日基収1317号)。したがって、自治組織体の役員の構成、員数、選出方法等に関して使用者が案を作成して寄宿労働者の自由な承認を求めることや、これにより決定した事項を寄宿舎規則に記載することは、違法となる。寄宿舎内における共同生活の秩序維持は、当該寄宿舎に居住する労働者の自治自律に任せるべきものである(旭化成事件、宮崎地延岡支判昭和38年4月10日)。 寄宿舎の管理人、寮母を置いても私生活の自治を侵さない限り本条に抵触しない(昭和22年9月13日発基17号)。なお寄宿舎に寄宿する労働者に関する事項について、使用者のために事務を処理する者(舎監、世話係等名称は問わない)は、たとえ寄宿舎に入舎していても本条でいう自治の主体としての「労働者」ではないから、寄宿舎の自治に必要な役員となることはできない(昭和23年6月3日基収1844号)。寄宿舎の自治のみに専任する寮長に対して賃金を支払うか否かは当事者の自由である(昭和23年6月16日基収1933号)。
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