宗室世系表の不備
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 15:55 UTC 版)
清代の考証学ではあまり指摘されてこなかったが、『集史』や『五族譜』といったペルシア語史料との比較検討が可能となった20世紀後半以後に指摘されるようになったもの。『五族譜』などの系譜史料と比較したとき、「宗室世系表」にはあまりにも問題点が多いため、杉山正明は「これに基づいて、大元ウルス治下の諸王統を正確に把握することなど、ほとんど不可能事に近い」とさえ称している。 根拠のない系譜の創作ジョチ家、チャガタイ家、フレグ家といった、いわゆる「西方3ハン国」の系図にみられるもので、事実に基づかない系図が創作されている。甚だしいのはジョチ家の系図(朮赤太子位)でバトゥ(抜都)、サルタク(撒里答)、モンケ・テムル(忙哥帖木児)、トダ・モンケ(脱脱蒙哥)、トクタ(脱脱)、ウズベク(月即別)らジョチ・ウルス歴代当主を全て兄弟関係にあるとしている。詰まるところ、これらの系図は本紀や列伝(ジョチ家の場合は巻107朮赤伝)に散見する人名を何の根拠もなく、恣意的につなぎあわせたものに過ぎないと言える。 同一人名の取り違えトクト、テムルといったモンゴル人の間ではありふれた人名でよく見られるもので、同じ名前だが実際には異なる人物を取り違えてしまうもの。以下のような事例が指摘されている。ジョチ家系図(朮赤太子位)の寧粛王トクト(脱脱)、粛王コンチェク(寛徹)父子:ジョチ家のトクタとチャガタイ系チュベイ王家の人物を取り違えている。 トゥルイ系ソゲドゥ家系図(歳哥都大王位)の荊王トク・テムル(脱脱木児)、荊王イェス・エブゲン(也速不堅)父子:ソゲドゥ家のトク・テムルとオゴデイ系コデン家のトク・テムルを取り違えている。 全く関係のない系図の挿入ある家系図に全く関係のない別の家系図がいり混ざってしまうもの。例えばチンギス・カンの庶子コルゲンの家系図の第5、第6世代は全く関係のない家系図が混ざりこんだものであると考えられている。また、前述した同一人名の別人を取り違えた箇所から別の家系図が挿入されるという事例もある。
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