媒介昆虫
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/03 05:38 UTC 版)
マツノザイセンチュウが発見されたのに続き、この線虫がマツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)というカミキリムシによって媒介されて感染拡大を引き起こしていることが発見報告された。このカミキリムシはマツ枯れ被害木からよく見つかることから以前から「松くい虫」候補の一つとして名前が挙がっていた昆虫である。 マツノマダラカミキリはヒゲナガカミキリ属(Monochamus)に属する小型のカミキリムシで、日本ではこの種以外にも近縁種が複数分布する。マツ枯れ被害にはマツノマダラカミキリ(M. alternatus)の他に同属のカラフトヒゲナガカミキリ(M. saltuaris)も関与していることが報告されているが、後者は前者に比べて線虫の保持数は著しく低く、関与は部分的と言われる。属名の通り両種とも長い触角(ひげ)を持つが、体の方は何れも1-3cm程度と小型。色もマツノマダラは茶色の斑(まだら)模様、カラフトヒゲナガは黒色と地味である。アメリカでの媒介は同属のM. carolinensisなど数種、スペインではM. galloprovincialis という種が主に関わっているという。マツノザイセンチュウの媒介では脇役のカラフトヒゲナガカミキリではあるが、ニセマツノザイセンチュウの媒介では主役であり主要な媒介昆虫であるとされる。 これらのカミキリの成虫は特に弱った木や枯死したばかりの木に好んで産卵し、幼虫はマツ(正確にはマツ属以外のマツ科植物も食べる)の材を食べて育つ。産卵は晩春から夏にかけて行われる。幼虫は初め樹皮直下の組織を食べるが、冬になるとより内部に潜り込む。冬になるまでに一通りの成長を終えた幼虫はさなぎを経て、6月-7月にかけて羽化する。カラフトヒゲナガの場合はもう少し早いという。成虫の餌はマツの若い枝であり、材から脱出するとこれを食べに向かう(昆虫学の用語では羽化後の摂食を後食と言う)。後食をしていくうちに性成熟したカミキリは繁殖相手を求め始め、やがて交尾・産卵し夏の終わりには姿を消す。 マツ枯れ被害が確認されていない北海道においてもシラフヨツボシヒゲナガカミキリ(M. urussovii)という近縁種が分布する。マツ属樹木に乏しい北海道の環境のためか、この種が餌として利用するのはマツ科トウヒ属(Picea)のエゾマツ(Picea jezoensis)やアカエゾマツ(Picea glehnii)、同科モミ属(Abies)のトドマツ(Abies sachalinensis)だという。このカミキリはこれら樹木の害虫として認識されているが、線虫が北海道に侵入した場合に線虫を媒介するのかどうかについてはよくわかっていない。ただし、この種はニセマツノザイセンチュウをエゾマツやトドマツに媒介することは確認されている。 他のBursaphelenchus属線虫を媒介する昆虫にはカミキリムシ、キクイムシ、ゾウムシ、クワガタムシ、ある種のハナバチ等が知られるという。なお、マツノザイセンチュウに関しては近年根の罹病木と健全木の癒合部分からも感染することが明らかになっている。 マツノマダラカミキリ(M. alternatus) カラフトヒゲナガカミキリ(M. saltuarius) マツの枝に付く北米産近縁種M. mutator ヨーロッパ産近縁種M. galloprovincialis
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