契約か否か
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/30 00:52 UTC 版)
この種のライセンスについて「契約」と言われることが多いが、法律用語としての “license”は、それなしには違法となる行為を許すこと、または、それを証明する書面のことをいい、契約という形態を採るか否かとは無関係の概念である。 仮に契約と理解すると、契約の成立要件である申込みと承諾が存在しないのではないかという問題が生じる。つまり、ライセンスに従って著作物を利用することをもって承諾の意思表示と認めるべき事実があったと評価することができるのかという点で、シュリンクラップ契約の有効性に関する問題と類似した問題が生じ得る。また、大陸法圏では問題にはならないが、英米法圏における契約法では、捺印証書によらない契約に拘束力が認められるには、約因 (consideration) が必要とされるが、ライセンスの一般的な頒布形態から、約因に相当するものが存在するか疑義がある。 そもそも、著作権者は法定された場合を除き、自ら排他的に著作物を利用できる権利を有しており、他者に対して著作物の利用を許諾すること自体は、著作権者は被許諾者に対してライセンスの範囲内では著作権の行使をしないという不作為債務を負うにとどまるに過ぎない。このことから、ライセンスに従っていれば著作権者としての権利を行使しないという旨の不行使宣言に過ぎないとの理解を生じることになる。もっとも、この点については、文書の利用前にライセンスの内容が明らかにされていることを前提に、ライセンス文書を添付して文書を配布する行為は申込に相当し、申込者の意思表示により承諾の通知は必要とされないと解釈できることから、当該ライセンスの内容を理解した上で文書を利用(複製、改変、頒布)したことが承諾の意思表示と認めるべき事実と考えることも可能であり(日本の民法526条2項参照)、契約と構成することも可能であるとの解釈も成り立つ。 契約であると理解すれば、ライセンスを付与した場合は、契約の拘束力によりライセンスの撤回はできないという帰結になるのに対し(瑕疵ある意思表示、意思の欠缺が認められる場合や、制限行為能力者による法律行為と認められる場合は、無効や取消の主張は可能)、不行使宣言であると理解すれば、ライセンスの撤回は法的には一応可能という帰結を生むことになる。もっとも、後者の場合、あくまでも法的に可能という趣旨であり、既に当該ライセンスに従って著作物を利用している者との関係では撤回をすることは信義則に反するし、撤回されていることを知らずに著作物の複製物を入手した者に対しても撤回の主張は許されないので、事実上はほとんど撤回できないことになる。
※この「契約か否か」の解説は、「ライセンス」の解説の一部です。
「契約か否か」を含む「ライセンス」の記事については、「ライセンス」の概要を参照ください。
- 契約か否かのページへのリンク