天体観測への大気光の影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/24 07:34 UTC 版)
「等級 (天文)」も参照 ここでは、天体観測に大気光がどれほど影響するのかを考える。最初に、等級 (天文)を光子束に変換する必要がある。これは光源のスペクトルに依存するが、とりあえずは無視する。可視光線範囲においてはまず係数 S0(V) を用意する。これは、0等星の星が放つ光のパワーを、平方cm単位の視口径の面積で割り、さらに㎛単位の波長で割ったものである。これによって等級を光束に変換できる。値は S 0 ( V ) = 4.0 × 10 − 12 {\displaystyle S_{0}(V)=4.0\times 10^{-12}} W cm−2 µm−1 となる。たとえば、28等星の星が、標準Vバンドフィルタ( B = 0.2 {\displaystyle B=0.2} バンドパス、 ν ∼ 6 × 10 14 {\displaystyle \nu \sim 6\times 10^{14}} Hz)を通るとすると、望遠鏡の口径の面積平方cmあたりの1秒間に通る光子の数は N s {\displaystyle N_{s}} で表され、以下のようになる。 N s = 10 − 28 / 2.5 × S 0 ( V ) × B h ν {\displaystyle N_{s}=10^{-28/2.5}\times {\frac {S_{0}(V)\times B}{h\nu }}} ( h {\displaystyle h} はプランク定数。 h ν {\displaystyle h\nu } は周波数 ν {\displaystyle \nu } の単光子のもつエネルギー) Vバンド(可視光範囲。色指数も参照)では、月の無い夜に高地の観測所から観測するという条件で、大気光からの放射は平方秒角あたり22等級(可視光線での等級。以下同じ)である。最高の条件の下では、星の像は直径0.7秒角程度になるので、面積としては0.4平方秒角になる。そしてその範囲での大気光からの放射は、23等級程度に相当する。大気光から受ける光子の数はN_{a}で表され、以下のようになる。 N a = 10 − 23 / 2.5 × S 0 ( V ) × B h ν {\displaystyle N_{a}=10^{-23/2.5}\times {\frac {S_{0}(V)\times B}{h\nu }}} 地上にある口径面積 A {\displaystyle A} の望遠鏡の理想的なSN比は、(減衰や検出器ノイズを無視すれば)ポアソン統計によると以下の式になる。 S / N = A × N s N s + N a {\displaystyle S/N={\sqrt {A}}\times {\frac {N_{s}}{\sqrt {N_{s}+N_{a}}}}} たとえば、口径10mの理想的な地上望遠鏡で未知の恒星を観察し、星像には毎秒35個の光子が到達するとする。一方大気光からは3500個の光子が到達するとする。すると1時間では、約 1.3 × 10 7 ± 3500 {\displaystyle 1.3\times 10^{7}\pm 3500} 個の光子が大気光から到達し、約 1.3 × 10 5 {\displaystyle 1.3\times 10^{5}} 個の光子が光源から到達する。この場合S/N比は約1/100である。 これと、実際の露出時間を比較してみよう。口径8mの超大型望遠鏡VLTの場合、FORS露出時間見積によれば、28等星の場合40時間の露出時間が必要になる。一方、口径が2.4mにすぎないハッブル宇宙望遠鏡では、ACS露出時間見積によれば4時間で足りる。ハッブル望遠鏡が8mだったら約30分になる計算である。 これらの計算からわかることは、視野を狭くすれば、大気光の影響を減じて対象を鮮明に感知できるということである。残念ながら、赤外線の範囲で一桁視野を減じるという補償光学技術が使われているだけである。赤外線では空は非常に明るいからである。一方、宇宙望遠鏡は、大気光に煩わされることが無いので、視野の制限をする必要は無い。
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