国枝式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 22:57 UTC 版)
1972年、鉄道技術研究所の国枝正春より、車両のローリング回りの静的つり合いに基づき、横風による車両に負荷される風圧力、車両の左右振動を見込んだ振動慣性力、曲線通過時の超過遠心力による輪重減少率の予測式が提案された。この式は国枝の式または国枝式と呼ばれる。右辺の第一項が超過遠心力に関する項、第二項が振動慣性力に関する項、第三項が横風風圧力に関する項である。風向きが逆の時は、第二項と第三項をマイナスにとる。この計算モデルで輪重減少率Dが1に達したときが、車両片側の車輪が浮き始めるとき、すなわち転覆が開始するときと考えられる。 D = 2 h G B ∗ G ( v 2 R g − c G ) ± 2 h G B ∗ G ( 1 − μ 1 + μ h G T h G B ∗ ) α y ± h B C ∗ G ρ u 2 S C Y W {\displaystyle D={\frac {2h_{GB}^{*}}{G}}\left({\frac {v^{2}}{Rg}}-{\frac {c}{G}}\right)\pm {\frac {2h_{GB}^{*}}{G}}\left(1-{\frac {\mu }{1+\mu }}{\frac {h_{GT}}{h_{GB}^{*}}}\right)\alpha _{y}\pm {\frac {h_{BC}^{*}}{G}}{\frac {\rho u^{2}SC_{Y}}{W}}} … (1) ここで D = ( P 0 − P L ) / P 0 , P 0 = W / 2 {\displaystyle D=(P_{0}-P_{L})/P_{0}\ ,\ P_{0}=W/2} μ = W T / W B , W = W B + W T {\displaystyle \mu =W_{T}/W_{B}\ ,\ W=W_{B}+W_{T}} それぞれのパラメータは、D:輪重減少率[-]、P0:静止輪重[kgf]、PL:風上側輪重[kgf]、WB:車体重量の半分[kg]、WT:1台車重量[kg]、hGB*:レール面からの車両重心の有効高さ[m]、hBC*:レール上面からの車体風圧中心の有効高さ[m]、hGT:レール面からの台車重心高さ[m]、G:車輪・レール接触点左右間隔[m]、v:走行速度[m/sec]、R:曲線半径[m]、g:重力加速度[m/sec2]、c:カント量[m]、αy:走行中の車体の重心位置における左右振動加速度(重力加速度で除したG単位)[-]、ρ:重力加速度で除した空気密度[kg-sec2/m4]、u:風速[m/sec]、S:車体側面の投影面積の半分[m2]、CY:横風に対する車体の抵抗係数[-]となっている。 (1)式の導出においては、カント角 θ は十分に小さいとみなし、 cos θ ≒ 1 , sin θ ≒ θ ≒ c / G {\displaystyle \cos \theta \fallingdotseq 1,\sin \theta \fallingdotseq \theta \fallingdotseq c/G} … (2) と置き、さらに、実数値上から(v2 /Rg)sinθはconθに比べると十分に小さいので、 v 2 R g sin θ + cos θ ≒ 1 {\displaystyle {\frac {v^{2}}{Rg}}\sin \theta +\cos \theta \fallingdotseq 1} … (3) としている。また、(1)式は、ナハ10形での実車試験結果などから考察して以下の仮定に基づいている。 車両のバネによる車体変位の影響は、車体重心高さhG と車体風圧中心高さhBC を25%増した有効高さhG*、hBC* を使用することで等価とみなし、影響を(1)式の中に織り込む。 横風による影響は、横力のみとして揚力は考慮しない。抵抗係数CY は1.0を仮定する。車両への風向角度による影響は考慮しない。 左右振動加速度αy は、走行速度の変数として以下のように仮定する。 α y = { 0.00125 v v ≤ 80 km/h 0.1 v > 80 km/h {\displaystyle \alpha _{y}={\begin{cases}0.00125v&v\leq 80{\mbox{km/h}}\\0.1&v>80{\mbox{km/h}}\end{cases}}} … (4) 横風による転覆において、風上側の輪重が0となり転覆が開始すると考えられる風速を転覆限界風速と呼ぶ。(1)式では、D = 1のとき(風向きが逆のときはD = -1のとき)の風速uが転覆限界風速に相当する。 (1)式より、車体と台車重量が重く、車体風圧中心と重心の高さが低く、車体側面の面積が小さく、車輪・レール接触点左右間隔が大きい(= 軌間)ような諸元の車両が転覆しにくいことが分かる。
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