国家の犠牲地域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 10:01 UTC 版)
ニューメキシコ州のインディアン保留地一帯はアメリカの核兵器開発と原子力産業の中枢となっており、全米科学アカデミーはこの地を「国家の犠牲地域」(National Sacrifice Area)のひとつに指定している。 広島と長崎に投下された原子爆弾は、同州一帯の「フォー・コーナーズ」にあるナバホ族、ホピ族、プエブロ族、山岳ユテ族の保留地から、アメリカ連邦政府によってほぼ部族に無断で採掘されたウラニウムを精製して製造され、メスカレロ・アパッチ族と西ショーショーニー族、南部パイユート族の保留地で爆発実験された。この際に生み出された放射性副産物質は、サン・イルデフォンソ・プエブロ族とサンタクララ・プエブロ族の保留地に格納された。 1990年に、アメリカの原子力産業施設の高レベル放射性廃棄物の「保管所」探しが関係当局の懸案となり、ニューメキシコの「メスカレロ・アパッチ族」、オレゴンとネバダの州境の「パイユート・ショーショーニー族」、ユタのスカルバレーの「ゴシュート族」、オクラホマの「トンカワ族」の保留地が候補に挙がった。全米から高レベル放射性物質が陸上輸送されるこの計画受け入れ先には、2億5千万ドルの関連補助金が提示された。これに「メスカレロ・アパッチ族」部族会議議長が名乗りを上げたため、この計画に反対する部族民と部族会議が対立して騒然となった。かなりの不正が指摘された部族国民投票まで行われ、95年にはほぼ頓挫。この計画は隣州の「ゴシュート族」、「ショーショーニー族」に持ち込まれることになった。 同州からアリゾナ州にかけて、ナバホ族の保留地ではウラニウムの採掘が、1940年代から1980年代にかけて行われた。採掘当初は白人業者はその危険性を部族に全く知らせず、採掘残滓を彼らの伝統住居の「ホーガン」の材料に勧めさえした。以後、ナバホ族やプエブロ族、その他周辺のインディアンの癌・腎臓病発症率が異常増加し、深刻な社会問題となっている。 2009年10月26日、同州のアコマでこの問題についてのフォーラムが開催され、周辺インディアンの罹病状況と補償の不備が報じられた。同地ではウラン価格が急落した1980年代後半に、一度ウラン採掘業は打ち切られかけたが、現在、投機的要素を含んで多数の関連企業が再び鉱脈の物色を始めており、周辺インディアンはウランの採掘再開に激しく抵抗している。
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