司法試験予備試験制度の導入
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「法科大学院定員割れ問題」の記事における「司法試験予備試験制度の導入」の解説
2011年から、司法試験法の規定に基づき司法試験予備試験(以下単に「予備試験」という。)が導入された。予備試験は、法律上法科大学院修了相当の学識及び応用能力を判定するための試験であり、これに合格すると法科大学院を修了しなくても新司法試験の受験資格が付与されるという制度であるが、予備試験に早期合格できる優秀な能力の持ち主にとっては、法科大学院を経由するよりも予備試験を経由する方が法曹となるまでの経済的・時間的コストが低くて済むことから、これにより法曹志望者が法科大学院を敬遠する可能性があることは予備試験制度の施行前から指摘されていた。実際の予備試験は、平成23年の最終合格率が約1.8%、平成24年の最終合格率が約3.0%、平成25年の最終合格率が約3.8%という旧司法試験並みの難関試験であり、合格者は東京大学、中央大学、慶応義塾大学といった名門大学の学部生や法科大学院生が多数を占めることになった。だが、これにより予備試験合格者は法曹関係者から「エリート」と認識されるようになり、法科大学院修了者より予備試験合格者の方が人気の高い大手法律事務所への就職に有利だと噂されるに至った。そのため、法曹を目指す学生の間では、「予備試験で受からなかった人が行くのがロースクール」という印象が定着し、法曹を目指す優秀な法学部生は予備試験合格を目指して法科大学院に進学しない傾向にある、法科大学院に進学した者も予備試験の受験を続け、法科大学院の授業よりも予備試験の受験勉強を優先する傾向にあるほか、予備試験合格により法科大学院を早期に退学することを目指している学生もいる、との指摘もある。政府の法曹養成制度検討会議取りまとめ(平成25年6月26日付け)では、こうした状況から予備試験制度の見直しについても検討が行われたが結論は出ず、予備試験がまだ制度実施後間もないことから、引き続きデータの収集を継続して行った上で、「予備試験制度を見直す必要があるかどうかを検討すべき」であり、「新たな検討体制において、2年以内に検討して結論を出すべきである」という問題先送りの方針が示されるにとどまった。法科大学院協会は「例えば、法学部を卒業後ただちに法科大学院に進学した者の多くが法科大学院を修了する年齢である24歳未満(あるいは、多くの者が学部を卒業する年齢である22歳以下)の者、及び現に法科大学院に在学する者に対しては受験資格を認めないこととするなどの措置を検討することが適当である」と受験資格制限を主張しているが、これに対しては法曹志望者をさらに減少させる危険がある、年齢による受験資格制限は憲法違反の問題があるなどと反対する意見がある。また、現在の予備試験はむしろ法科大学院制度を支える機能を果たしている、との指摘もある。すなわち、全盛期の法科大学院においても、既修者コースに入学してきた者の大半は旧司法試験の合格を目指して法律の勉強を目指してきた人たちであり、旧司法試験の終了により既修者コース入学者のレベルも下がっていること、現在の法学部教育では法科大学院の既修者コースに入学できるような教育が行われていないことは法科大学院関係者も自認する事実であり、現状ではむしろ学部生時代から予備試験と司法試験の勉強を続け、大学在学中には惜しくも予備試験合格を果たせなかったレベルの学生たちが既修者コースの重要な供給源になっていると言わざるを得ない、このような状況で予備試験の受験資格を制限すれば、大学在学中から予備試験合格に向けて高度の勉強をする学生がいなくなり既修者コースにも人材が集まらなくなって、法科大学院制度を維持すること自体が困難になる、もし法科大学院を存続させるのであれば予備試験と共存する方向を考えるしかない、というものである。
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