原理と詳細
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/10 08:47 UTC 版)
ヨウ素は同位体の種類が多く(ヨウ素の同位体を参照)、その大半が放射性同位体として知られているが、自然に存在するヨウ素のほぼ100%が安定同位体のヨウ素127 (127I) であり、放射性ヨウ素と比較し「安定ヨウ素」と呼ばれる。安定ヨウ素はカリウム塩、ヨウ素酸カリウムの錠剤といった「安定ヨウ素」製剤として用いる。 動物の甲状腺は、甲状腺ホルモンを合成する際に原料としてヨウ素を蓄積する。原子力災害時等により、不安定同位体の放射性ヨウ素を吸入した場合は、気管支や肺または、咽頭部を経て消化管から体内に吸収され、24時間以内にその10 - 30%程度が甲状腺に有機化された形で蓄積される。放射性ヨウ素の多くは半減期が短く、その代表としてよく知られるヨウ素131 (131I) の半減期は8.1日であり、β崩壊することで内部被曝を起こす。 放射性ヨウ素の内部被曝は甲状腺癌、甲状腺機能低下症等の晩発的な障害のリスクを高めることが、チェルノブイリ原子力発電所事故の臨床調査結果より知られている。 大量にヨウ素を摂取した場合は、甲状腺にヨウ素が蓄積され、それ以後にさらにヨウ素を摂取しても、その大半が血中から尿中に排出され、甲状腺に蓄積されないことが知られている。それを応用したのが、放射線障害予防のための「安定ヨウ素剤」の処方である。 非放射性ヨウ素製剤である「安定ヨウ素剤」を予防的に内服して甲状腺内のヨウ素を安定同位体で満たしておくと、以後のヨウ素の取り込みが阻害されることで、放射線障害の予防が可能である。この効果は本剤の服用から1日程度持続し、後から取り込まれた「過剰な」ヨウ素は速やかに尿中に排出される。 また、放射性ヨウ素の吸入後であっても、8時間以内であれば約40%、24時間以内であれば7%程度の取り込み阻害効果が認められるとされる。 原子力災害時の推奨摂取量(WHOの推奨値)年齢ヨウ素摂取量(mg/日)ヨウ化カリウム摂取量(mg/日)ヨウ素酸カリウム摂取量(mg/日)ヨウ素を100mg含む錠剤として1日あたり飲む個数12歳以上 100 130 170 1 3歳 - 12歳 50 65 85 1/2(1錠の半分) 1ヶ月 - 3歳 25 32 42 1/4(1錠の4分の1) 1ヶ月未満 12.5 16 21 1/8(1錠の8分の1) なお、放射性ヨウ素の被曝による甲状腺の障害は、甲状腺の機能が活発な若年者、特に甲状腺の形成過程である乳幼児においてに顕著であり、40歳以上では有意ではない ため、本剤の投与は40歳未満の者に対してのみ行われる。国際原子力機関 (IAEA) の基準では本剤の適用範囲を年齢・性別を問わずに適用としているが、世界保健機関 (WHO) の基準では40歳未満としている。一回の安定ヨウ素の投与は永続的なヨウ素過剰による甲状腺疾患は起こさない。 世界保健機関 (WHO) は安定ヨウ素剤配布の基準を甲状腺預託線量100mSvとしているが、安定ヨウ素剤の甲状腺腫瘍の発生を防ぐ効果と副作用のかねあいから小児、妊婦に対しては10mSvも適当であるとしている ヨウ化カリウム錠剤 ヨウ素酸カリウム錠剤(1957年ウィンズケール火災事故の際にアイルランドで配布されたもの)
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