原理と運用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 14:18 UTC 版)
「部分軌道爆撃システム」の記事における「原理と運用」の解説
弾道ミサイルは人工衛星より低速であり(それでも秒速4.5kmから6km以上にもなる)、発射地点から目標までの最短距離を飛行する。このためレーダーで捉えればコンピューターにより短時間で軌道が割り出され、落下地点が判明して、住民の避難が可能である。 FOBSは、人工衛星と同じ秒速7.9km程度の速度で地球を周回する軌道に投入される。その高度は100kmから150kmほどで、大陸間弾道ミサイルの頂点高度よりはるかに低いため大規模レーダー網でも早期発見は困難である。しかも地球周回軌道を取るため、北極回りの最短距離も関係がなく、どの方向から飛んでくるかも事前に分からない。1960年代、当時のソ連首相ニキータ・フルシチョフは「南極越えでアメリカを攻撃できる」と豪語したが、実際にフルシチョフの発言通りFOBSは南極回りでアメリカを攻撃することも可能で、そのような経路を取った場合、アメリカ側は攻撃を察知できず、不意討ちとなって大被害を受ける事になる。 このようにFOBSには戦略兵器として有利であるが、不利な部分も多い。弾道ミサイルとは異なり、この方式では弾頭を「いったん衛星軌道に乗せ、さらに、その軌道速度から減速して落下させる」必要がある。それには弾道ミサイルよりさらに大きな速度が必要であるので、ロケットは大型の大出力のものになり、一方では搭載する核弾頭は軽量化(低威力化)しなければならない。しかも、目標に向かって投射されるだけの弾道ミサイル弾頭とは異なり、FOBS弾頭は、大気圏に再突入するために逆噴射を行なって減速しなければならず、それに必要な装備に重量を食われ、ますます核弾頭の威力が小さくなってしまう。しかも逆噴射による減速はタイミングが難しく、命中精度も大きく落ちる( = CEPが大きい)。また、FOBSは地上配備のレーダー網をかいくぐる事は可能だったが、軌道上の赤外線早期警戒衛星からは隠れることができず、アメリカはR-36-Oの発射を早期に知る事ができた。このような多くの難点があり、第二次戦略兵器制限交渉の妥結もあって、短期間で廃止された。
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