原理と計算式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/20 21:35 UTC 版)
非定常熱線法は、定常法と異なり、熱移動の過渡現象を利用して熱伝導率を求めるものである。固体の場合には、2枚の試料の接合面の中央に挟まれた直線状の金属低抗線(以下、これを熱線と呼ぶ)に通電するとジュール熱が発生し、線に垂直な面内で放射状に拡がり、熱線に接した試料の温度は急速に上昇するが、試料内の熱拡散の難易によりその温度上昇の様子は試料によって種々異なる。この上昇率の時間依存性が試料の熱伝導率に関係するものとして、これから熱伝導率を知ろうとするのがこの測定法の原理である。この方法での熱伝導率の算出式は、理論式から次のようにして得られる。まず、無限に拡がった媒体中に太さのない無限長さの直線状熱源を仮定する。これより放散される熱は、図1のように、熱源に直交する面内で2次元的に拡散するものとすると、熱源からの距離rの点における温度変化は次のように表される。 ∂ θ ∂ t = k ( ∂ 2 θ ∂ 2 r + 1 r − ∂ θ ∂ r ) {\displaystyle {\frac {\partial \theta }{\partial t}}=k\left({\frac {\partial ^{2}\theta }{\partial ^{2}r}}+{\frac {1}{r}}-{\frac {\partial \theta }{\partial r}}\right)} ………(1) ただし、θ:温度、t:時間、k:熱拡散率である。 (1)式を次の3つの条件、 t = 0 , θ = 0 ( 0 ≤ r < ∞ ) t > 0 , θ = 0 ( r → ∞ ) t > 0 , Q = − 2 π r λ ⋅ ∂ θ ∂ r {\displaystyle {\begin{array}{ll}t=0,&\theta =0\,(0\leq r<\infty )\\t>0,&\theta =0\,(r\to \infty )\\t>0,&Q=-2\pi r\lambda \cdot {\frac {\partial \theta }{\partial r}}\end{array}}} で解くと、次式がえられる。 θ = q 4 π λ [ − E i ( − r 2 4 k t ) ] {\displaystyle \theta ={\frac {q}{4\pi \lambda }}\left[-Ei\left(-{\frac {r^{2}}{4kt}}\right)\right]} ………(2) ここに、q:熱源からの放散熱量、λ:熱伝導率で、 − E i ( x ) = ∫ x ∞ 1 x e − x d x = − C − ln x + x 1 ⋅ 1 ! − x 2 2 ⋅ 2 ! {\displaystyle {\displaystyle -E_{i}(x)=\int _{x}^{\infty }{\frac {1}{x}}e^{-x}dx=-C-\ln x+{\frac {x}{1\cdot 1!}}-{\frac {x^{2}}{2\cdot 2!}}}} ………(3) である。 上式のC = 0.5772…でオイラー定数と呼ばれるものである。 r2/4ktが十分に小さい場合は(3)式の第3項以下が省略でき、-Ei(-x)=-C-ln xとなり、(2)式は、 θ = Q 4 π λ ( ln 4 k t r 2 − C ) {\displaystyle \theta ={\frac {Q}{4\pi \lambda }}\left(\ln {\frac {4kt}{r^{2}}}-C\right)} ………(4) となる。(4)式は、熱線に接した試料温度(θ)を、時間を対数軸(log t)にとった片対数グラフにプロットすれば図2のように直線になり、このθ-log tの勾配中に熱伝導率が含まれていることを示している。従って、(4)式の成立している範囲内での任意の時間、t1、t2における温度をθ1、θ2とすれば、 θ 2 − θ 1 = Q 4 π λ ⋅ ln t 2 t 1 {\displaystyle \theta _{2}-\theta _{1}={\frac {Q}{4\pi \lambda }}\cdot \ln {\frac {t_{2}}{t_{1}}}} ………(5) となるから、電気抵抗R(Ω/m)の金属線にI(A)の電流を通電してこれを熱源とし、t1~t2間 (秒または分)の熱源近傍の上昇温度θ2-θ1を測定すれば、熱伝導率λは次式から算出される。 λ = I 2 R 4 π ⋅ ln ( t 2 / t 1 ) θ 2 − θ 1 {\displaystyle \lambda ={\frac {I^{2}R}{4\pi }}\cdot {\frac {\ln {(t_{2}/t_{1})}}{\theta _{2}-\theta _{1}}}} ………(6) 上昇温度(θ)の測定場所は、熱線に近いことが望ましいので、実際には、熱線と接した試料中、すなわち、熱電対の温接点の先端を熱線に接した状態で測定を行う。 この考えに基づく測定法は、かなり古くから研究されており、まず、Stalhaneらによって実験的に解明されて経験式が導かれ、ついでvan der Heldらによって理論的に証明されて対流の影響を無視できる優れた液体測定法として確立され、広く用いられるようになったものである。 固体材料への応用は、1960年にHaupinによって試みられて熱線法(hot wire method)と称され、ASTM法と比較して極めてよく一致した結果を得て以来、耐火物、断熱材、粉粒体充填物などの迅速測定法として多くの研究者から注目された。
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