せんてん‐せきりょくしきかくいじょう〔‐セキリヨクシキカクイジヤウ〕【先天赤緑色覚異常】
読み方:せんてんせきりょくしきかくいじょう
網膜にあるL錐体またはM錐体の遺伝的な変異によって生じる色覚異常。赤や緑を識別しにくいという色覚特性を持つが、個人差が大きく、通常の色覚とほとんど変わらない場合もある。先天色覚異常のほとんどがこれにあたる。いわゆる赤緑色盲・赤緑色弱のこと。ドルトニズム。
[補説] L錐体は長波長域(赤〜黄緑)、M錐体は中波長域(黄〜緑)の光を吸収し、電気信号に変換して視神経へ出力する。先天赤緑色覚異常には、L錐体が欠損(1型2色覚)あるいはM錐体の感度特性に近似(1型3色覚)するものと、M錐体が欠損(2型2色覚)あるいはL錐体の感度特性に近似(2型3色覚)するものがある。遺伝形式はX染色体劣性遺伝をとる。→一型色覚 →二型色覚 →二色覚 →異常三色覚
先天赤緑色覚異常
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/10 17:20 UTC 版)
先天色覚異常の中でもっとも多く存在し、赤系統や緑系統の色の弁別に困難が生じる人が多いとされる。色の弁別に困難が生じるだけで、視力は正常である。日本人では男性の約5%、女性の0.2%が先天赤緑色覚異常で、日本全体では約290万人が存在する。北欧にルーツを持つ男性では約8%、女性では約0.4%で先天赤緑色覚異常がみられる。 脊椎動物の色覚は、網膜の中にどのタイプの錐体細胞を持つかによって決まる。魚類、両生類、爬虫類、鳥類には4タイプの錐体細胞(4色型色覚)を持つものが多い。よってこれらの生物は、長波長域から短波長域である近紫外線までを認識できるものと考えられている。一方、ほとんどの哺乳類は錐体細胞を2タイプ(2色型色覚)しか持たない。哺乳類の祖先である爬虫類は4タイプすべての錐体細胞を持っていたが、2億2500万年前には、最初の哺乳類と言われるアデロバシレウスが生息し始め、初期の哺乳類はおもに夜行性であったため、色覚は生存に必須ではなかった。結果、4タイプのうち2タイプの錐体細胞を失い、青を中心に感知するS錐体と赤を中心に感知するL錐体の2錐体のみを保有するに至った。これは赤と緑を十分に区別できない、いわゆる「赤緑色盲」の状態である。この色覚が哺乳類の子孫に遺伝的に受け継がれることとなった。 ヒトを含む旧世界の霊長類(狭鼻下目)の祖先は、約3000万年前、X染色体にL錐体から変異した緑を中心に感知する新たなタイプの錐体(M錐体)視物質の遺伝子が出現し、ヘテロ接合体の2本のX染色体を持つメスのみが3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて相同組換えによる遺伝子重複の変異が起こり、同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されることとなり、X染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚は果実等の発見に有利だったと考えられる。 時代を下ってヒトの色覚の研究成果により、ヒトが属する狭鼻下目のマカクザルに色盲がヒトよりも非常に少ないことを考慮すると、ヒトの祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が下がったと考えられる。色盲の出現頻度は狭鼻下目のカニクイザルで0.4%、チンパンジーで1.7%である。新世界ザル(広鼻下目)はヘテロ接合体のX染色体を2本持つメスのみが3色型色覚を有し、オスはすべて色盲である。これは狭鼻下目のようなX染色体上での相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こさなかったためである。ヒトは上記のような霊長目狭鼻下目の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、M錐体を欠損したX染色体に関連する赤緑色盲が伴性劣性遺伝をする。男性ではX染色体の赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいると色盲が発現し、女性では2本のX染色体とも赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいる場合に色盲が発現する。
※この「先天赤緑色覚異常」の解説は、「色覚異常」の解説の一部です。
「先天赤緑色覚異常」を含む「色覚異常」の記事については、「色覚異常」の概要を参照ください。
- 先天赤緑色覚異常のページへのリンク