保護の現状と展望
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/01 06:45 UTC 版)
本種は天然記念物ならびに国内希少野生動植物種として無許可の採捕や飼養・譲渡等は原則として禁じられる。個体数調査は貝から泳ぎ出た仔稚魚が岸辺に群れをなす5-6月、主にその目視観察によって行われるのが通例となっている。これは成魚を対象にすると池の干し上げや投網での捕獲といった大がかりな手段によらざるを得ず、魚体を傷つけ水底環境や調査対象外の生物にも影響を及ぼし、また上記のとおり国の許可が必要となるためである。 残存する各生息地では行政や民間の保護団体により、イシガイ類の稚貝放流による繁殖支援や外来魚駆除・密漁防止・保護池の造成管理といった保護活動がなされている。現状の啓発や研究発表を目的としたシンポジウムも開催され、生息地間の情報交換も行われる。 本種はタナゴ類の中でも人に慣れにくく外傷や病気にも弱いため飼育しにくいことに加え、秋産卵型であるため母貝の長期飼育が必要となる人工繁殖は困難であった。しかし現在では成功例が増加しており、大阪府水生生物センターや琵琶湖博物館などで淀川水系の個体群が継代飼育されるほか、氷見市では2007年から小学校児童による飼育の取り組みも行われている。また、精子を液体窒素で凍結保存する技術も開発されており、系統保存の観点では一定のめどが立っている。少数の成魚に由来するが故に起こる創始者効果、近親交配の進行による遺伝的多様性の喪失を防ぐため、氷見市では保存池内の集団に毎年野生個体を導入して管理している。2010年、氷見市の飼育繁殖集団は野生集団とほぼ同等の遺伝的多様性が確保されていることがマイクロサテライト分析により明らかになった。淀川水系の系統保存個体群を含め、野生集団の保全ならびに野生復帰に向けた再導入を適切に行うために、遺伝的多様性を維持した飼育繁殖方法を確立していくことが必要であると指摘された。 一方、先述のとおり淀川ではほぼ野生絶滅状態となったことにより放流が実施され、日進市でも生息が確認できなくなっているなど、自然界における生息環境と野生個体群の保全という観点からは本種の置かれた状況が好転しているとはいえない。淀川水系では、淀川大堰操作の効果を疑問視し抜本的な環境改善策が必要であるとする見解が研究者から出されており、また城北ワンド群など下流域における見通しは現状では絶望的であり、今後は大堰の影響が少ない木津川など中流域での保護に注力すべきとする意見もある。
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