中性子照射の影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/25 05:04 UTC 版)
潜在リスクとしては中性子照射による圧力容器の脆化問題が指摘されている。原子炉を運転することで圧力容器に中性子の照射が続くと容器は徐々に脆くなり、脆性遷移温度(その温度以上では脆くないが、以下だと脆くなる温度)が上昇していく。この現象の問題点は冷却材喪失事故時などに緊急炉心冷却装置を作動させ容器内の圧力が高いまま大量の冷却水を注入した際に、容器に大きな熱衝撃がかかるため小さなクラックから一気に割れが生じる危険性があるというものである。そのため各圧力容器には容器材料と同じ材質の試験片が配置されており、定期的に取り出してその状態をチェックし、資源エネルギー庁に報告している。しかし舘野によれば、初期の圧力容器の温度上昇が著しいことをデータを交えて紹介している。初期の圧力容器では当時の未成熟な製造技術のため銅などの不純物が比較的多く含まれており、製造技術の改善が原子力開発と並行して進められた。なお、影響としては容器の肉厚が厚く、燃料集合体との距離が小さく、使用圧力の高いPWRにおいて、よりその影響が顕著であるという。 古平恒夫は『原子力工業』にて製造年代による不純物含有量の変遷を提示し1967年製造の圧力容器で平均0.2%あった銅の含有量が1973年には0.03~0.04%に低下しているという。アメリカでは、1974年に銅の含有率を0.1%以下とする規制が導入されている。 VVER用の圧力容器では銅の他リンの含有量も多く、この脆化を回避するため圧力容器内に電気ヒータを入れて再焼鈍を実施しているが、桜井淳は『原発のどこが危険か』(初版1995年)にて西側では実施されていないことを指摘しつつ、下記の問題を挙げている。 材料組成や焼鈍条件が公開されていない 遷移温度の設計値が当初明らかになっておらず、質問により80度と判明、実機では190度にもなってから焼鈍を実施している 脆化を回避するためには設計時に高速中性子を減少させる工夫が必要だが、遷移のはやさから考えて旧西側諸国の圧力容器より設計上の工夫が劣っている可能性があり、1992年にモスクワの本屋で原子力関係の専門書17冊を購入して調べた結果、1MeV以上の高速中性子がWH社の100万kW級PWRに比較し、VVER440型用の容器で111倍、VVER1000型用の容器で10倍以上あるとしている。 焼鈍未実施の圧力容器がある 桜井は、これらを根拠に同型炉の危険性を指摘し、焼鈍に代わる安全策として西側諸国の外交圧力で運転を中止させることや外側の燃料集合体の一部をステンレスに置き換えた特殊な燃料集合体を使用することで、高速中性子を減少させることなどを提案している。
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