中性子の性質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/09 22:39 UTC 版)
中性子が陽子と電子の複合粒子であるか否かの疑問は、発見後数年間続いた。例えば1932年にHarrie Masseyは物質を通り抜ける強い透過力と電気的中性を説明するために複合中性子のモデルを探究した。この問題は、素粒子は陽子と電子だけである1920年代からの一般的見解の遺産である。中性子の性質は1933年10月に開催された第7回ソルベー会議の主要な議論のテーマであり、ここにはハンゼンベルク、ニールス・ボーア、リーゼ・マイトナー、アーネスト・ローレンス、フェルミ、チャドウィックらが出席した。1933年のチャドウィックによるBakerian Lectureで提議されたように主な問題は陽子に対する中性子の質量であった。中性子の質量が陽子と電子の結合質量(7000100780000000000♠1.0078 u)より小さい場合、中性子は結合エネルギーによる質量欠損のために陽子-電子複合体である可能性がある。結合質量より大きい場合、陽子と同様に素粒子である。電子の質量は陽子の質量のわずか0.05%であるため、この質問に答えるのはチャレンジングであった。したがって非常に正確な測定が必要であった。 測定が難しいことは、1932年~1934年に得られた中性子の質量の値が幅広いことから分かる。今日受け入れられている値は7000100865999999999♠1.00866 uである。発見を報告したチャドウィックの1932年の論文では中性子の質量を7000100499999999999♠1.005 uと7000100800000000000♠1.008 uの間にあると推定している。キュリー夫妻はホウ素にアルファ粒子を当てることで7000101200000000000♠1.012 uという大きな値を得た一方、アーネスト・ローレンスのチームは新たなサイクロトロンを使用して小さな値7000100060000000000♠1.0006 uを測定した。 1935年、チャドウィックと博士課程の学生Maurice Goldhaberは中性子の質量の初の正確な測定を報告することで問題を解決した。2人はタリウム208 (208Tl)(当時トリウムC"として知られる)の2.6 MeVガンマ線を使用して重陽子を光崩壊させた。 21D + γ → 11H + n この反応では、結果として得られる陽子と中性子は質量がほぼ等しいため、運動エネルギーもほぼ等しい。得られる陽子の運動エネルギーを測定でき(0.24 MeV)、それにより重陽子の結合エネルギーを決定することができた(2.6 MeV − 2(0.24 MeV) = 2.1 MeV, or 6997230000000000000♠0.0023 u)。中性子の質量は単純な質量バランスにより決定できる。 md + b.e. = mp + mn md,p,n は重陽子、陽子、中性子の質量、"b.e."は結合エネルギーである。重陽子と陽子の質量は既知であった。チャドウィックとGoldhaberはそれぞれ2.0142 uと1.0081 uという値を使用した。彼らは重陽子の質量に使われる正確な値により、中性子の質量が陽子の質量よりわずかに大きい7000100840000000000♠1.0084 u もしくは 7000100899999999999♠1.0090 u であることを見つけた。中性子の質量は陽子-電子複合体としては大きすぎるため、中性子は素粒子であることが確認された。皮肉にも、チャドウィックとGoldhaberはフェルミの理論を支持して自由中性子が陽子、電子、ニュートリノに崩壊(ベータ崩壊)できると予測をした。
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