ラッセルの指名を巡って
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 14:55 UTC 版)
「ビル・ラッセル」の記事における「ラッセルの指名を巡って」の解説
1950年代前半のボストン・セルティックスはレッド・アワーバック指揮のもと、毎年アシスト王になっていたボブ・クージー、フリースローの名手だったビル・シャーマンと、リーグを代表する選手2人をバックコートに、インサイドにはやはりリーグを代表するセンターだったエド・マコーレーを擁し、プレーオフ常連のチームではあったが、優勝には程遠く、中堅チームとして長らく燻っていた。優勝するために最後のピースを探していたアワーバックにとって、カリフォルニア大学のビル・ラッセルは究極のチームプレイヤーのように見えた。ラッセルのタフネスとリバウンド力はセルティックスに欠けていたものだったのである。このアワーバックの考えは、当時のバスケ界では異端とされていた。当時のセンターはあくまでチームの主要な得点源であって、ディフェンスなどは二の次であった。 ぜひともラッセルを欲したアワーバックだったが、セルティックスがラッセルを指名できる確率は低いように思えた。彼らがラッセルがエントリーした1956年のNBAドラフトで持っていた指名権はとても低いもので、彼らの順に回ってくるまでにラッセルが指名されずに残っている可能性はほぼ無かった。さらにアワーバックはセルティックスが持つ1巡目指名権を放棄し、地域指名でトム・ヘインソーンを指名する予定だったため、彼らがただ座して待っているだけでは、ラッセルを指名できるのは不可能だった。そこでアワーバックでは、ある取り引きを行うことでラッセルをまんまと手中に収める事に成功する。この取り引きは毎年指名権を巡って熾烈な駆け引きが行われるNBAドラフトの歴史において、最も巧妙な取り引きの一つとなり、またセルティックス史上、さらに史上類を見ない王朝チームを築き上げたという点においてはNBA史上最も重要な取り引きの一つとなる。 まず、アワーバックはこの年の全体1位指名権を持つロチェスター・ロイヤルズはラッセルを指名しないと踏んだ。何故ならロイヤルズにはすでにモーリス・ストークスという屈強なビッグマンがいるためラッセルを指名する必要はなく、また彼らは優秀なシューティングガードを探しており、さらにラッセルの要求する25,000ドルの契約を払う気がなかったからである。そしてアワーバックが目を付けたのが2位指名権を持つセントルイス・ホークスだった。ホークスはラッセルを指名する予定だったが、彼らにはドラフト候補生以外でもう一人欲しい人材が居た。セルティックスのセンター、エド・マコーレーである。マコーレーはセントルイス生まれのセントルイス育ち、セントルイス大学の出身で、ホークスにとってはこの地元出身のスター選手を是非とも招き入れたかった。またマコーレー自身も病気がちの息子のためにセントルイスに帰りたいという希望を持っていた。相思相愛となったセルティックスとホークスは、ホークスにラッセルを指名してもらい、後にマコーレーとのトレードでラッセルがセルティックスに入団するという手はずを整えた。その後ホークスはセルティックスの足許を見てマコーレーに、クリフ・ヘイガン(セルティックスに指名された後2年間の兵役に就いていた為、NBAではまだプレイしていない)も加えるよう要求し、セルティックスはこの要求を渋々呑んで、ビル・ラッセルに対し、エド・マコーレーとクリフ・ヘイガンというトレードが仮成立した。 そしてドラフト当日。1位指名権を持つロイヤルズは、アワーバックの目論見どおり、ラッセルではなくドゥケイン大学のシー・グリーンを指名。そしてホークスは約束通り、2位指名権を使ってラッセルを指名した。そして直後にセルティックスとのトレードが交わされ、ラッセルはめでたく、セルティックスに入団したのである。さらにセルティックスは当初の予定通りに1巡目指名権を放棄して地域指名によってトム・ヘインソーンを指名。さらに2巡目指名権を使ってラッセルと同じUSF出身であるK.C.ジョーンズを指名。アワーバックはたった1度のドラフトで、後に殿堂入りする選手3人を手に入れてしまったのである。 アワーバックはラッセルを入団させるために多大な労力を払ったが、彼の選択はセルティックスにとっては最高の選択となり、そして他チームにとっては悪魔の選択となる。ラッセルのセルティックス入団により、ここにボストンに数々の栄光を、他の地にはそれと同数の挫折をもたらす王朝チームが完成したのである。なお、互いに満足のいく取り引きを行ったセルティックスとホークスだが、新シーズンを迎えると一転して激しいライバル関係を演じることになる。
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