ホロコーストの歴史家
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/09 04:55 UTC 版)
「ラウル・ヒルバーグ」の記事における「ホロコーストの歴史家」の解説
ヒルバーグは、ヨーロッパ・ユダヤ人への国家社会主義の犯罪を扱うさいに、 4つの権力集団(官僚・軍・産業・政党)の官僚的な集合体 = 絶滅機構 ゆるやかな措置がその後につづくさらに厳しい処置を遂行するために先行条件となる= 絶滅過程 を前提し、完成されたユダヤ人の絶滅計画が最初からあったわけではなかったが、どの地域でも同じように段階的に順番通りに作戦が実行された事実を説明しようとした。 ナチズム研究では、ユダヤ人絶滅政策におけるヒトラーの意図を重視する「意図主義 Intentionalism」と、独ソ戦以降の特異な状況の中で部分的な絶滅作戦が、徐々に全面的なものへとエスカレートしていったとする「機能主義 Functionalism」の立場がある。ヒルバーグは、ヒトラーをユダヤ人絶滅への推進力として前提としているので「意図主義者」と考えられる。しかし、ヒルバーグの描く「絶滅過程」は、一ドイツ人の悪意によって一挙に創造されたものではない。官僚たちはユダヤ人たちを「憎悪」してはいなかった。ヒルバーグの示す絶滅過程での現場の状況では、4つの権力集団は自分たちの決断がどこに導くかを知らないまま独自に行動し、ある時には互いの仕事をさえぎり、ある時には調整し合い、前人未踏の犯罪へと邁進していく。これは「機能主義」による解釈に酷似している。ここでの主犯は一人ではなく、ドイツ官僚全体に及ぶ。 さらにヒルバーグは、(1)ユダヤ人の絶滅は「国策」であり、ドイツ全体が国を挙げて荷担した事業である、(2)ドイツ人が行政面で通達に従順にしたがうユダヤ人に頼り、ユダヤ人は自らの絶滅の共謀者になった、という2つの重大な指摘を行い、特に後者の結論を譲らなかったことで論争を招く。これはヒルバーグがユダヤ人評議会をドイツ官僚機構の延長ととらえていたことからして、不可避の結論だった。さらに進んで彼は「神・王・法律・契約を信頼するユダヤ人の伝統」に言及しないわけにいかなかったし、「経済的に利用価値のあるものを遂行者が破壊することはあるまいというユダヤ人の計算」についても熟考しないわけにいかなかった。ヒルバーグは、いち早く難を逃れた安全なアメリカからユダヤ人評議会の「加害責任」を問うたことで糾弾される。 ヒルバーグのホロコースト研究は時代に先駆けて発表され、論争に巻きこまれた当時は挑発的でさえあったが、現在ではこの分野で彼の業績は評価されている。
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