ベル 429とは? わかりやすく解説

ベル 429

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/19 01:11 UTC 版)

ベル 429(Bell 429)は、ベル・ヘリコプターおよび韓国航空宇宙産業(KAI)がベル 427をベースに共同開発した軽量双発ヘリコプター。 試作機は2007年2月27日に初飛行[1]、量産機が2009年7月1日に型式証明を得た[2]。1名のパイロットで計器飛行方式での運用が可能である[3]

開発

シンガポール航空ショー2010でのベル429

ベル429は主に航空救急(EMS)業界の要求により開発された。ベル427は、元々この市場に対応することを意図していたが、患者を搭載するにはキャビンサイズが小さく[4]アビオニクスは計器飛行方式(IFR)の認証に対応していなかった。 429の原型となるコンセプトは、2004年にベル427s3iとして国際ヘリコプター協会が開催するHAIヘリエキスポで発表されたが[5]、これは顧客の要求に見合ったものではなかった[6]

ベル427の機体構造を流用する計画は放棄され、MAPL(Modular Affordable Product Line)の概念に基づいて新たに開発された[5]。 ベル429は、MAPLコンセプトに基づいて設計された完全新規の機体構造と先進的なローターブレードの設計を採用したが、ベル427から派生形エンジンとロータ駆動系を引き継いだ。基本グレードの機体は、グラスコックピットを備え、パイロット1名乗務での計器飛行方式(IFR)に対応した。ベルは機体開発において韓国航空宇宙産業(KAI)と日本の三井物産エアロスペースと提携した[7]

MAPLに基づいたコンポーネントのうち重要なものは、2006年2月にベル427をテストベッドとして飛行試験が行われた。ベル429の型式証明の取得はもともと2007年後半に予定されたが[8]、その時期に発生した航空機産業全体の材料や部品の不足に起因して計画が遅延したため、開発期間は延長された[1]。試作機は2007年2月27日に初飛行した。2008年2月時点で、3,429回の飛行試験が行われ、総飛行時間は約600時間となっていた[9]。高地試験はコロラド州リードヴィルで、高温試験はアリゾナ州レイクハバスシティで実施された。

ベル429は、2009年7月1日にカナダ運輸省航空局(TCCA)から[2]、2009年7月7日に連邦航空局(FAA)から型式証明を得た[10]欧州航空安全機関(EASA)からの認証は、2009年9月24日にHelitechで発表された[11]。FAAとEASAは、TCCAが許可したカナダ沿岸警備隊における運用の際の重量制限の免除について一致しなかった[12]

2009年6月時点で、ベル429は301機以上の受注を得た[13]。ベル429のローンチカスタマーは、米国最大の救急ヘリ事業者であるエア・メソッド英語版で、2009年7月7日には、ケベック州ミラベルのベル・ヘリコプターの施設で、最初の機体(製造番号57006)が引き渡された[14][15]

設計

ベル429のコクピット

ベル429のメインローターは、soft-in-plane フレックスビームを有する4枚の複合材ブレードで、ノイズ低減技術が盛り込まれている。テールローターは4枚のブレードを持ち、ノイズを低減するため、2組のブレードローターを不均一な間隔で組み合わせた構造となっている[1]。機内の総容積は204立方フィートで客室(130立方フィート)と荷物室(74立方フィート)となる[4]。航空救急向けのオプションとして、フラットな客室床と後部のクラムシェルドアを有する仕様が設定されている。

ベル429は、3軸のオートパイロットとフライトディレクター機能を持つBasiX-Pro統合アビオニクスで構成され、3基の多機能ディスプレイを備えるグラスコックピットになっている。このシステムはパイロット1名乗務での計器飛行方式(IFR)カテゴリAの認定を受けている[16]。多機能ディスプレイについてはRogerson Kratos社製であったが、後にアストロナウティクスコーポレーションオブアメリカ英語版による6インチx 8インチのBadger Pro +に換装されている[17]

標準の着陸装置はスキッドだが、オプションで格納式のランディングギアを選択できる。ランディングギアを選択した場合、巡航速度が5ノット向上する[2]。1エンジン停止の状態でも飛行を継続可能で、メインギアボックスのオーバーホール間隔は5000時間、テールローターギアボックスは3200時間となっている[4]

運用者

オーストラリア海軍のベル429
スロバキア内務省航空局のベル429。写真の機体は2017年に墜落して失われた
日本
オーストラリア
カナダ
ジャマイカ
モロッコ
スロバキア
 スウェーデン
トルコ
アメリカ合衆国
イギリス
サウジアラビア
  • EDIC Horizon Flight Academy 2機[31]

性能諸元

航空救急仕様のベル429

出典: [4]

諸元

性能

  • 超過禁止速度: 287 km/h (155 kn, 178 mph[4]
  • 巡航速度: 273 km/h (150 knots, 172.5 mph)
  • 航続距離: 722 km (390 nmi) 449 mi
  • 実用上昇限度: 6,096 m (20,000 ft)

  • ホバリング限界高度(地面効果内): 4307 m(14130 ft)
    ホバリング限界高度(地面効果外): 3438 m(11280 ft)


使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

脚注

  1. ^ a b c "Bell Flies 429, Stretches Program". Rotor & Wing, April 2007.
  2. ^ a b c "Bell 429 Achieves Certification" Archived 2009年7月11日, at the Wayback Machine.. Bell Helicopter, July 1, 2009.
  3. ^ Transport Canada Type Certificate Search
  4. ^ a b c d e "Light Twin, Big Cabin", Aviation Week & Space Technology 170, 26 (June 29, 2009), p. 42.
  5. ^ a b Croft, John. "Bell Canada: composites not a grey area". Flight International, June 12, 2009.
  6. ^ AW & ST: "... but the cabin was not big enough to attract operators, particularly the emergency medical service industry."
  7. ^ [1] アーカイブ 2009年7月17日 - ウェイバックマシン
  8. ^ Bell 429 newsletter. Bell, March 2007.
  9. ^ "Bell Provides 429 Program Update". Bell Helicopter, February 22, 2008.
  10. ^ "FAA, TC Certify Bell 429". Rotor & Wing, July 7, 2009.
  11. ^ "Helitech 2009: Bell 429 achieves EASA Certification". Rotorhub, September 24, 2009.
  12. ^ Stephens, Ernie. "Docs Show FAA Was Angry Over Bell's Weight Exemption" Rotor & Wing, June 3, 2014. Accessed: June 8, 2014. Archived on June 8, 2014.
  13. ^ Croft, John. "Bell: certification imminent for Bell 429 rotor rocket". Flight Daily News, June 15, 2009.
  14. ^ New model certified. Montreal Gazette, July 8, 2009.
  15. ^ Bell Presents 429 To Its First Customer. Textron website, July 16, 2009.
  16. ^ BELL HELICOPTER'S BELL 429
  17. ^ Astronautics To Provide Displays for Bell 412EPX, 429
  18. ^ World Air Forces 2013”. Flightglobal Insight. 2013年2月2日閲覧。
  19. ^ “Raytheon to provide Bell 429s for interim RAN aircrew training”. Australian Aviation. (2011年9月19日). http://australianaviation.com.au/2011/09/raytheon-to-provide-bell-429s-for-interim-ran-aircrew-training/ 2011年9月19日閲覧。 
  20. ^ Bell 429 selected for Canadian Coast Guard”. verticalmag.com. 2014年7月1日閲覧。
  21. ^ IISS 2024, p. 439.
  22. ^ IISS 2024, pp. 375–376.
  23. ^ Slovensko-ukrajinskú hranicu bude monitorovať americký vrtuľník”. joj.sk. 2014年10月11日閲覧。
  24. ^ アーカイブされたコピー”. 2014年5月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年7月28日閲覧。
  25. ^ State Police add 2 Helicopters to fleet”. wdel.com. 2014年11月5日閲覧。
  26. ^ Bell Helicopter Delivers Model 429 To Fairfax County Police Department”. aero-news.net. 2013年2月2日閲覧。
  27. ^ Bell Helicopter 429 "Swaggercopter"”. collegesportsblog.dallasnews.com. 2013年2月6日閲覧。
  28. ^ New York Police Department Aviation Division”. www.policehelicopterpilot.com. 2015年5月1日閲覧。
  29. ^ http://helihub.com/2015/10/20/careflite-orders-second-bell-429/
  30. ^ http://www.wiltshireairambulance.co.uk/who-we-are/new-helicopter
  31. ^ UAE Trainer Purchases Two Bell 429s - Rotor & Wing International

参考文献

  • The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2024) (英語). The Military Balance 2024. Routledge. ISBN 978-1-032-78004-7 

外部リンク


ベル 429

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スターク・インダストリーズ」の記事における「ベル 429」の解説

トニーが“アベンジャーズ内乱時に、“ラフト刑務所”への移動手段として運用したヘリコプター

※この「ベル 429」の解説は、「スターク・インダストリーズ」の解説の一部です。
「ベル 429」を含む「スターク・インダストリーズ」の記事については、「スターク・インダストリーズ」の概要を参照ください。

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