フォワードによる解析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 16:10 UTC 版)
負の質量を持つ粒子は知られていないが、物理学者(主にヘルマン・ボンディとロバート・L・フォワード)は、そのような粒子が持つであろういくつかの特性を予測して、記述した。質量の三つの定義が全て等価であると仮定すると、負の質量は正の質量に引き寄せられるが、正の質量は負の質量に反発するような系を構築することができる。負の質量どうしは互いに引力を生じるが、負の慣性質量にとっての引力は反発力となるためにお互い斥け合って運動するであろう。 m p {\displaystyle m_{p}} が負の値で m a {\displaystyle m_{a}} 正の値であるとき、 F {\displaystyle F} は負(斥力)である。負の質量は正の質量に反発して加速するように思えるが、そのような物体は負の慣性質量も持つため、物体は F {\displaystyle F} と反対の方向に加速する。さらに、もし二つの粒子の質量の絶対値は等しいが正負が逆である場合、その正負の粒子からなる系は外部からの力の入力がなくても、限りなく加速し続けることをボンディは指摘した。 この挙動は、正の質量を持つ通常の物体に対して働くと期待される運動の'常識'とは明らかにかけ離れている。しかし、これは数学的には全く矛盾していない。これは運動量保存の法則およびエネルギー保存の法則を破っているように思われるかもしれない。だが実際には、それぞれ大きさの等しい正および負の質量の二つの物体がともに運動および加速する場合は、速度の大きさによらず、この系の運動量は常にゼロである。 すなわち、次のように運動量は保存している: P s y s = m v + ( − m ) v = [ m + ( − m ) ] v = 0 × v = 0. {\displaystyle P_{sys}=mv+(-m)v=[m+(-m)]v=0\times v=0.} 運動エネルギー K e {\displaystyle K_{e}} も同様に保存する: K e s y s = 1 2 m v 2 + 1 2 ( − m ) v 2 = 1 2 [ m + ( − m ) ] v 2 = 1 2 ( 0 ) v 2 = 0 {\displaystyle K_{e\ sys}={1 \over 2}mv^{2}+{1 \over 2}(-m)v^{2}={1 \over 2}[m+(-m)]v^{2}={1 \over 2}(0)v^{2}=0} フォワードはその他の場合についてもボンディの解析を拡張し、二つの質量m(-)とm(+)の大きさが等しくない場合でも、これらの保存則は成立することを示した。 この運動から、いくつかの奇妙な結論が導かれる。例えば、正質量の粒子と負質量の粒子の混合気体は、正質量の成分は、温度が際限なく上昇し続ける。しかし、負の質量の成分は同じ割合で温度が下がり続けるので、やはりバランスは保たれる。ジェフリー・A・ランディスは、フォワードの解析が含意する他の効果を指摘した。例えば、負の質量を持つ粒子どうしは、重力によっては互いに反発するが、電磁気力によっては、同符号の電荷は互いに引きつけあい、反対の符号の電荷は互いに反発しあう。これは、正質量の粒子では同符号の電荷が反発しあうのと反対であり、負質量の粒子では重力および電磁気力は反対の効果を持つことを意味する。 フォワードは負の質量を利用して、いかなるエネルギーも消費せず、無制限の高加速を得られる宇宙機の推進方法を提案した。しかし、負の質量は未だ仮想上のものに留まっているので、建造は現実化していない。(diametric driveを参照) フォワードはまた、通常の質量の物質と負の質量の物質が接触したときの反応を記述するため、"無化"という新造語を定義した。質量が正および負で、その他の性質が等しい物質どうしが衝突したとき、いかなるエネルギーも放出しない。つまり、正と負の質量の物体は互いの存在を"相殺"あるいは"無化"すると予想される。しかし、お互いの存在を無化し合うためには、両方の粒子が同じ速度で同じ方向に運動している場合のみ系の運動量が常にゼロとなることができるが、この運動の配置では衝突が起こらない。結局、正と負の物体が衝突する場合はすべて、運動量の余剰が残ることになり、運動量は保存されない。このため、この衝突は古典力学に反している。これは、自然界に通常物質と負物質が等しい量だけ存在していないことの説明になるかもしれない。
※この「フォワードによる解析」の解説は、「負の質量」の解説の一部です。
「フォワードによる解析」を含む「負の質量」の記事については、「負の質量」の概要を参照ください。
- フォワードによる解析のページへのリンク