ファスト・トラック手続による実施法案の議決
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「貿易促進権限」の記事における「ファスト・トラック手続による実施法案の議決」の解説
ファスト・トラック手続による実施法案の議決は次のように行われる。 通商協定に署名する日から90暦日以上前(93年6月のURに関するファスト・トラック手続を延長する改正では、120暦日前(93年12月15日まで))に、署名する意図を上下両院に通告し、その後速やかに官報に告示すること。 協定に署名した後、大統領は上下両院に最終協定及び実施法案等を送付すること。大統領の送付した法案は、上下両院の多数派院内総務(又はその指名したもの)により同時に両院に提出される。 当該協定は、交渉前に上院財政委員会及び下院歳入委員会に書面による通告を行い、協議されたものである。 議会において実施法案の修正は、禁止され、当該実施法案提出の日から90日以内に採決されることとなっている。なお、実施法案に歳入関係の条項がある場合(通常、実施法案は何らかの形で歳入条項を含んでいる。)は、下院で先に議決される。 上院でそれまで上院に提出された実施法案を審議しておき、下院から実施法案が送付された段階で、その審議を下院送付の法案の審議に切り換えて最終表決を行う。 なお、協定の署名期限及び意図の通知の期限は、法律で規定されているが、実施法案の提出期限は規定されていない。実際の例ではNAFTA実施法案では、11月3日、UR実施法案では、9月27日となっており、協定発効日まで90日を切った段階で提出されている。 上記のように、貿易促進権限に基づき交渉・妥結した通商協定の実施法案は、行政府が作成し、かつ短時間の審議で修正を行うことなく採決するために著しく行政府に有利であると思われた。1974年通商法の立案段階では、実施法案の議会送付までは、議会の積極的な参画は予定されていなかった。しかし、東京ラウンドの実施法案の作成段階である議会の専門スタッフは、主要な上下院議員と協議の上、次のような行政府と委員会の協議手続きを編み出し「模擬的な」立法手続き(mock legislative process) が行われることになった。議会の議決を経なければ非関税障壁に関する国内法は立法できない(あるいは、議会により同法案が否決されてしまえば、全ての東京ラウンド合意が崩壊してしまうといった方が正確かもしれないが)わけであるから、行政府側もこの方式に同意せざるを得なかった。 ノン・マークアップ通常、議会の各委員会が本会議提出用の法案を公式に検討するための会合は、マークアップと呼ばれており、ここで法案が吟味され、各委員の修正意見が追加されるわけであるが、ファスト・トラック手続による90日間の行政府と各委員会の協議は、この手続きにほぼ沿ったものであった。しかし、実際に法案が提出されたわけではないので、この協議のための会合は、ノン・マークアップと呼ばれた。また、議会のマークアップが一般に公開されているのに対して、ノン・マークアップは非公開で行われた。 議会スタッフによる法案作成上院財政委員会及び下院歳入委員会は、更に行政府及び通商交渉担当者と協議を盛んに行い、どのような条項が法案に盛り込まれるべきかについて交渉を行う。議会側は、国内法の実際の作成を議会の法律スタッフが行うよう主張し、行政府側は事実上これを了承せざるを得なかった。 ノン・コンファレンス通常、上院と下院で可決した法案に相違があるとき開かれるのが、両院協議会(コンファレンス)であるが、実施法案に関して、財政委員会と歳入委員会の間で意見の相違がある場合に開かれた会合は、ノン・コンファレンスと呼ばれた。ノン・コンファレンスには、行政府の代表も参加した。 このように議会の非公式手続によって作成された法案は、ほとんどそのまま行政府案として議会に送付されることになる。もっとも行政府も議会の非公式手続きに深く係わっているわけだし、また上下両院の意見が一致しない場合は、行政府の判断で法案が作成される場合もある。
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