ヒトの微生物叢の由来と定着
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 13:33 UTC 版)
「微生物叢」の記事における「ヒトの微生物叢の由来と定着」の解説
ヒトに定着している微生物はどこからやってくるのか。新生児の微生物叢は母体に由来しているようである。新生児の細菌叢と母体の細菌叢を比較した調査によると、新生児の細菌叢は出産の形態に影響を受ける。自然分娩の場合は母体の膣の細菌叢が新生児に定着し、ラクトバシラス属菌が優占種となる。一方で帝王切開の場合は母体の細菌叢が定着し、プロピオニバクテリウム属菌をはじめとした皮膚の常在細菌が優占種となる。分娩形態の違いにより生じる新生児における微生物叢の違いは12-24ヶ月齢までに徐々に消えていく。分娩前の胎児が微生物叢を持つかについては議論があった。胎児が無菌的であるか否かについては150年前から議論されていたが、20世期の後半になって一旦は胎児は無菌であり、出産中とその後に微生物叢を獲得するという説が定説となる。しかしながら、近代的なDNAシークエンシング技術の開発によって、従来無菌的であると考えられていた羊水、胎盤、臍帯血、胎便からも細菌が検出されたことから、再び胎児の子宮内における微生物叢の獲得が主張されたきた。もっともDNAの抽出試薬も細菌DNAに汚染されているなどの理由から、試料から得られるDNAの量が少ない場合は、試料に由来しない細菌DNAを検出してしまう可能性があるなど、実験系に制限があることが知られる。そのため、子宮内における微生物の検出には確定的な結論は出ていない。実際、子宮内における微生物の検出には否定的な見解が示されている。537人の妊婦を対象とした研究によると、妊娠中の胎盤は基本的に無菌的であると考えられ、唯一の例外は約5%の妊婦でB群レンサ球菌が検出されたことのみであった。 抗生物質は新生児の微生物叢に影響を及ぼし、新生児への持続的投与は喘息、2型糖尿病、炎症性腸疾患、乳アレルギーなどの疾患と関連する可能性がある。もっとも、否定的見解もしめされており、また、相関関係は必ずしも因果関係を意味しない。食事もまた微生物叢に影響を与える。母乳栄養は粉ミルクに比べ、新生児と母体の双方に健康上の利点があるとされるが、母乳に分泌される免疫グロブリンA、ラクトフェリン、ディフェンシンが少なからずこれに寄与すると考えられる。
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