ハワードラトニックとは? わかりやすく解説

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ハワード・ラトニック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/23 02:56 UTC 版)

ハワード・ラトニック
Howard Lutnick
商務長官公式肖像(2025年撮影)
生年月日 (1961-07-14) 1961年7月14日(64歳)
出生地 アメリカ合衆国
ニューヨーク州ロングアイランド
出身校 ハバフォード大学 (BA)
所属政党 共和党
配偶者 アリソン・ランバート
(1994年 - )
子女 4人
内閣 第2次トランプ内閣
在任期間 2025年2月21日 - 現職
大統領 ドナルド・トランプ
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ハワード・ウィリアム・ラトニック英語: Howard William Lutnick1961年7月14日 - )は、アメリカ合衆国の実業家、政治家。現在、同国商務長官(第41代)。証券会社キャンター・フィッツジェラルドの最高経営責任者(CEO)を務めた。2025年1月からは、第2次トランプ政権商務長官を務めている。

幼少期と学生時代

ハワード・ラトニックはニューヨーク州ロングアイランドでユダヤ系の家庭に生まれた[1]。父親のソロモンはニューヨーク市立大学クイーンズ校の歴史学教授であり、母親のジェーンはロングアイランド大学で教鞭も執った芸術家だった[1]1983年、ラトニックはハバフォード大学より経済学学士の学位を取得した。

キャリア

大学卒業後、ラトニックは米ドル日本円両替商として働くなかでB・ジェラルド・キャンターと出会い、1983年にキャンターが経営するキャンター・フィッツジェラルドに入社し、1991年には社長兼CEOに任命された[2]

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件で、ワールドトレードセンター(世界貿易センタービル)に本社を置くキャンター・フィッツジェラルドのオフィスが破壊され、全従業員の68.5%であるニューヨークの従業員960人のうち658人が死亡または行方不明となり、ラトニック自身も兄弟のゲイリーを失った。事件後、ラトニックは慈善事業への巨額寄付で知られるようになった。

政治活動

ドナルド・トランプ大統領選挙キャンペーン

ラトニックとドナルド・トランプ(2025年2月)

ラトニックは2019年2020年アメリカ合衆国大統領選挙で再選を目指すトランプのための募金活動を主催して500万米ドル以上を集めた[3]。過去にはヒラリー・クリントンカマラ・ハリスに献金したこともあったが[4]、彼は妻によるものと主張している[5]

2024年8月、彼はニューヨークの自宅で2024年アメリカ合衆国大統領選挙で返り咲きを狙うトランプのために1500万ドルを調達し[6]、同月にラトニックはリンダ・マクマホンとともにトランプの政権移行チームの共同議長に任命された[4]。政権移行チームの共同議長としてラトニックはトランプに忠実な人材を重視し、マー・ア・ラゴで8台のテレビと2台のiPadを用意してトランプに候補者の情報をレクチャーしていたとされる[7]。ラトニックはワクチン自閉症を引き起こすという保険福祉長官候補ロバート・ケネディ・ジュニアの主張に同調して物議を醸した[8]。同年10月にマディソン・スクエア・ガーデンイーロン・マスクと一緒にトランプの集会に登場し[4]、「125年前の米国には所得税はなく、関税のみがあった」と応援演説で述べてトランプの高関税政策を支持した[9]。また、ポッドキャストに出演してマスクやトランプとともに自身は連邦政府を解体して官僚機構を改革し、アメリカの資本主義を解放すると述べた[7]。マスクとケネディは次期財務長官人事に介入してラトニックを推したが[10][11]、最終的にはスコット・ベッセントが選ばれることとなった。

第2次トランプ政権の商務長官

2025年4月2日、相互関税を発表するトランプ大統領とラトニック商務長官(右)

2024年11月、トランプ次期大統領から第2次トランプ政権商務長官としてアメリカ合衆国通商代表部(USTR)にも直接の責任を負いながら関税・貿易政策の指揮に当たると公表され[12]、2025年2月18日に上院にて賛成多数で承認[13]。21日に就任宣誓を行い着任した[14]。キャンター・フィッツジェラルドは中国の企業と関係があるために利益相反の懸念が示されていたが[15]、指名承認に伴いCEOの職を退き、経営を2人の息子に託した[16]。上院商務・科学・運輸委員会の人事承認公聴会では、品目別ではなく、国別に10%の相互関税を賦課することをトランプに進言したと述べ、米国の株式市場に打撃を与えた中国製人工知能(AI)のDeepSeekに関しては関税に裏打ちされていない輸出規制を迂回して開発されたと主張して強力に対応していくことを表明した[17]

2025年3月3日、半導体メーカーのTSMCが1000億ドルの追加対米投資をホワイトハウスで発表した際、ラトニックは関税の効果であると強調し、同席した第2次トランプ政権のAI・暗号資産責任者であるデービッド・サックス英語版はトランプとラトニックの貢献への感謝を述べた[18]。選挙期間中、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、ラトニックは中国とのより大規模な貿易協定を模索するよう個人的にトランプを促すなどトランプの経済・産業政策について各国の政府や企業と非公開で交渉していたとされ[19]インテルの工場運営にTSMCを参画させるための議論にも関与したと報じられていた[20]。また、ラトニックはCHIPS法英語版による補助金と引き換えにインテルやTSMCなど半導体企業の株式を米国政府が取得する計画を推し進め[21]、インテルCEOのリップブー・タン英語版と合意したことを表明するも米国政府が出資して民間企業の経営に介入することは前代未聞であるとして物議を醸した[22]

2025年3月12日、日本武藤容治経済産業大臣など各国の代表と会談するも除外の要請を受け入れず[23]、日本を含む全世界から輸入する鉄鋼・アルミニウム製品を対象とする25%の関税を発動。同日、FOXテレビに出演して「日本は鉄鋼をダンピングしている」と批判した[24]。また、14日には日本が韓国ドイツなどの他国よりも有利に扱われることはないとして全ての国から輸入される自動車に関税を課す意向を述べた[25]。19日には親交のあるマスクが経営する米テスラ社の株式購入を現職の閣僚では異例にも呼びかけた[26]。翌4月に発動した世界各国への相互関税でペンギンアザラシしか生息していないオーストラリア領の無人島ハード島とマクドナルド諸島が対象になった際は迂回輸出対策である旨を述べた[27]。9日、相互関税推進派のピーター・ナヴァロの不在中にラトニックとベッセント財務長官がトランプ大統領に働きかけて一部の相互関税の停止が決定されたと報じられた[28]。16日、再燃した日米貿易摩擦のために日本の赤沢亮正経済再生相が訪米して行われた閣僚級の日米関税交渉では、責任者のベッセント財務長官やアメリカ合衆国通商代表ジェイミソン・グリアとともに出席した[29]。赤沢とはお互いに「ラトちゃん」[30]「ハワード」(ラトニックのファーストネーム)「リオ」と呼び合う親密な仲であり、ベッセントが欠席した貿易協議ではラトニックが自宅に赤沢を招いて行われた[31]。また、米中貿易戦争でもレアアースや半導体など輸出規制の問題を担当することから閣僚級のキーパーソンとなっており、ジュネーヴでの米中の合意後から中国との貿易協議に加わっている[32]

出典

  1. ^ a b Diver, Tony (2024年11月19日). “Howard Lutnick: Trump’s commerce secretary pick survived 9/11 because of school run”. The Daily Telegraph. 2025年3月4日閲覧。
  2. ^ “For Cantor's Lutnick, It's Eat or Be Eaten"”. bloomberg.co.jp. ブルームバーグ. https://www.bloomberg.com/news/2011-09-19/ex-soros-trader-scott-bessent-returns-to-25-billion-firm-as-cio.html 2025年3月4日閲覧。 
  3. ^ R.N.C. Accepts Money From Steve Wynn, Mogul Accused of Sexual Misconduct”. The New York Times (2019年5月19日). 2025年3月4日閲覧。
  4. ^ a b c Ensign, Rachel (2024年10月31日). “Meet the Wall Street Bigwig Who Has Become Trump's Headhunter in Chief”. The Wall Street Journal. 2025年2月15日閲覧。
  5. ^ Gillespie, Todd (2024年9月5日). “Howard Lutnick Emerges as Trump's No. 1 Salesman on Wall Street”. Bloomberg News. 2025年3月4日閲覧。
  6. ^ Allison, Ben (2024年8月9日). “With Howard Lutnick's Help, Trump Raises $15 Million at Hamptons Event”. Bloomberg News. 2025年3月4日閲覧。
  7. ^ a b “トランプ次期政権の経済運営で自ら名乗り、ラトニック氏野心隠さず”. ブルームバーグ. (2024年11月13日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-12/SMUDPAT0AFB400 2025年3月4日閲覧。 
  8. ^ Trump's Transition Team Head Says R.F.K. Jr. Converted Him to Vaccine Skeptic”. The New York Times (2024年10月31日). 2025年3月4日閲覧。
  9. ^ “Trump picks Wall Street investor Howard Lutnick as Commerce Secretary”. [[NPR (米国公共ラジオ放送)|]]. (2024年11月19日). https://www.npr.org/2024/11/19/nx-s1-5189643/commerce-treasury-secretary-howard-lutnick-trump-cantor-fitzgerald 2025年3月13日閲覧。 
  10. ^ “マスク・ケネディ両氏、次期財務長官にラトニック氏支持”. bloomberg.co.jp. ロイター. (2024年11月28日). https://jp.reuters.com/world/us/QEKBQPBYLNPRJOXEMDRWAMA3EU-2024-11-18/ 2025年3月4日閲覧。 
  11. ^ “米国 マスク氏「人事介入」 実名投稿 次期財務長官巡り”. 毎日新聞. (2024年11月28日). https://mainichi.jp/articles/20241118/dde/007/030/028000c 2025年3月4日閲覧。 
  12. ^ “トランプ氏、商務長官にラトニック氏 USTRにも「直接責任」”. ロイター. (2024年11月20日). https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/C6SK7Z7CMJKUZM22Q225XFUZOE-2024-11-19/ 2025年3月2日閲覧。 
  13. ^ “ラトニック氏の米商務長官就任を承認-上院本会議”. ブルームバーグ. (2025年2月19日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-18/SRWKSKT0AFB400 2025年3月2日閲覧。 
  14. ^ “Howard Lutnick calls it the ‘greatest honor’ to work for Trump at swearing-in”. Fox News Online. FOXニュース. (2025年2月21日). https://www.foxnews.com/video/6369162376112 2025年3月4日閲覧。 
  15. ^ “米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉に”. ロイター. (2024年11月22日). https://jp.reuters.com/world/us/EV5W7FLYZZMKVLQNFY5GOSQ4P4-2024-11-21/ 2025年3月4日閲覧。 
  16. ^ “ラトニック米商務長官、2人の息子らにキャンターの経営託す”. ブルームバーグ. (2025年2月19日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-02-19/SRWRFPT1UM0W00 2025年3月4日閲覧。 
  17. ^ “ラトニック米商務長官候補、DeepSeek不正なら「強力に対応」-関税効果を強調”. ブルームバーグ. (2025年1月30日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-01-29/SQUYS3T1UM0W00 2025年3月4日閲覧。 
  18. ^ “REMARKS BY PRESIDENT TRUMP ON INVESTMENT ANNOUNCEMENT”. ホワイトハウス. (2025年3月3日). https://www.whitehouse.gov/remarks/2025/03/remarks-by-president-trump-on-investment-announcement/ 2025年3月4日閲覧。 
  19. ^ Swanson, Ana (2025年2月19日). “Trump Eyes a Bigger, Better Trade Deal With China”. The New York Times. 2025年3月4日閲覧。
  20. ^ With Trump's Help, Intel Could Hand Control of Chip Plants to TSMC”. The New York Times (2025年2月14日). 2025年2月21日閲覧。
  21. ^ 米、インテル以外の半導体企業にも出資検討 補助金と引き換え=関係筋”. Reuters (2025年2月14日). 2025年8月23日閲覧。
  22. ^ “アメリカ政府が半導体大手「インテル」株を10%取得 ラトニック商務長官が表明 異例の政府介入に米メディア「自由市場の資本主義の原則に反する」”. TBS. (2025年8月23日). https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2125100 2025年8月23日閲覧。 
  23. ^ “武藤経産相“米の関税措置 日本除外は前向きな回答得られず””. NHK. 日本放送協会. (2025年3月11日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250311/k10014745851000.html 2025年3月13日閲覧。 
  24. ^ “商務長官、日本が不当廉売と批判 鉄鋼、米FOXビジネスの番組で”. 共同通信. 共同通信社. (2025年3月13日). https://nordot.app/1272569920451887356 2025年3月13日閲覧。 
  25. ^ “自動車への「トランプ関税」、日本も除外せず…ラトニック商務長官「他国よりも有利にはならない」”. 読売新聞. 読売新聞社. (2025年3月15日). https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250315-OYT1T50035/ 2025年3月24日閲覧。 
  26. ^ “米商務長官「テスラ株を買え」 マスク氏支える狙い、異例の“推薦””. 毎日新聞. 毎日新聞社. (2025年3月21日). https://mainichi.jp/articles/20250321/k00/00m/030/048000c 2025年3月24日閲覧。 
  27. ^ “ペンギンの島への関税、「抜け穴」ふさぐためと米商務長官 トランプ氏の貿易政策を擁護”. BBC. 英国放送協会. (2025年4月8日). https://www.bbc.com/japanese/articles/cx20rjywrpgo 2025年4月12日閲覧。 
  28. ^ トランプ関税の一時停止、ナバロ氏不在の隙に2閣僚が提案”. WSJ (2025年4月20日). 2025年4月24日閲覧。
  29. ^ “赤澤大臣 トランプ大統領と会談 閣僚交渉で措置見直し強く要求”. NHK. 日本放送協会. (2025年4月17日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250416/k10014781391000.html 2025年4月17日閲覧。 
  30. ^ “訪米中の赤沢経済再生相、商務長官を「ラトちゃん」、財務長官を「ベッちゃん」とX投稿”. 産経ニュース. (2025年8月8日). https://www.sankei.com/article/20250808-4XP5QB47MFFHFADQNP5DWIZRXE/ 2025年8月23日閲覧。 
  31. ^ “「ハワード」「リオ」 赤沢氏、愛称で親密アピール 日米関税交渉”. 毎日新聞. 毎日新聞社. (2025年6月15日). https://mainichi.jp/articles/20250615/k00/00m/020/058000c 2025年6月20日閲覧。 
  32. ^ “米国と中国の2度目の閣僚級貿易協議は6時間超、レアアース焦点、10日も継続へ”. 産経新聞. 産経新聞社. (2025年6月10日). https://www.sankei.com/article/20250610-2AC457UMMJJGNJHHHCCAFMJHTI/ 2025年6月20日閲覧。 



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