タブーン洞窟
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/09 09:12 UTC 版)
タブーン洞窟 (Tabun cave) は「炉の洞窟」の意味で、ナハル・メアロットの洞窟群では一番西に位置している。タブーンには約50万年前から約4万年前までの人類進化の痕跡が残されているが、その環境は時代ごとに大きく変わったと考えられており、海水面の上昇や下降に応じ、海岸線も近接したり遠ざかったりと変化し、食文化にも影響を及ぼした。それらの時期を通じて、洞窟内には砂、シルト、粘土などの層が堆積し、およそ23mにおよぶ。最下層の堆積物には大量の海砂が含まれている。このことと、発見された花粉の痕跡は、その時代が相対的に温暖な時期であったことを示している。融解した氷河は海水面を上昇させ、地中海の海岸線も現在とは異なっていた。海岸平野は現在よりも狭く、サバナの植生に覆われていた。当時の洞窟の住民たちはフリントや石灰岩のハンドアックスで、海岸平野に生息していたガゼル、カバ、サイ、ウシなどを仕留めたり、植物の根を掘り出したりしていた。道具はゆっくりとではあるが改良されていったので、ハンドアックスもより小型化し、刃も一層鋭利になっていった。また、スクレーパーがフリントの核石から削り取られた剥片で作製されており、骨から肉を削り取るときや、動物の皮を剥ぐ時に使われたものと考えられている。タブーン洞窟の上層は主に粘土とシルトで構成されており、氷河が再び形成され、より寒冷で湿潤な気候になったことを示している。この気候変動は、鬱蒼とした森林や沼地に覆われたより広い海岸部をもたらした。上層部から出土する遺物は、ムスチエ文化(約20万年前 - 45000年前)に属している。薄い薄片から作られたフリントの小道具群がこの層では支配的で、多くがルヴァロワ技法(英語版)を使用して生み出されている。これらの層は上から順にG層まで分類されており、約22万年前から約15万年前と見積もられているE層は、ネアンデルタール人の居住層として最古と見なされている。 タブーン洞窟は、ナハル・メアロットの中でギャロッドが最初に調査した洞窟である。彼女の調査によって、前述のムスチエ文化の大量の石器群だけでなく、タブーンC層から、ネアンデルタール人女性の全身骨格(タブーン1)と男性の顎の骨(タブーン2)が発見された。当初、タブーン1は4、5万年前と推測されていたが、ESR法での年代測定によって11万年前のネアンデルタール人と判定された。この女性人骨は、イスラエルで出土したヒトの全身骨格の中では、最古の部類に属している。 タブーン洞窟 1929年から1934年の発掘で出土したハンドアックス群
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