スプラッター色の強調とアルジェント・タッチの模倣へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/03 03:04 UTC 版)
「ピート・ウォーカー (映画監督)」の記事における「スプラッター色の強調とアルジェント・タッチの模倣へ」の解説
恐怖映画の鬼才として国際的な名声を手にしたピート・ウォーカーが次に選んだ題材は、尊敬するダリオ・アルジェントを意識したサイコ・ミステリーだった。 アルジェント・タッチの演出とストーリーによる『スキゾ』Schizo(1976年)ではリン・フレデリックを主演に迎え、忍び寄る殺人鬼の影におびえる新妻を演じさせた。リン・フレデリック演じる主人公サマンサは、幼少のころに母親が惨殺される瞬間を目撃していた。忌まわしい過去の記憶を封印し、今では成人したサマンサは恋人と結婚式を挙げて幸福にひたっていた。だが、結婚式の席でケーキ入刀のナイフが血まみれの肉切り包丁とすり替えられていた。悪質な嫌がらせに式場は騒然とするが、サマンサは幼少時に目撃した殺人の記憶を思い起こし、それが誰の仕業であるか見当がついた。サマンサは精神科医に過去に目撃した殺人の記憶を打ち明け、救いを求めるが、その日の晩に精神科医が何者かによってナイフで喉を切り裂かれて惨殺される。容疑はサマンサの夫に向けられ、サマンサは真犯人を突き止めようとするが、第二第三の凄惨な猟奇殺人が続発する…。 『スキゾ』のストーリーやヴィジュアル面ではダリオ・アルジェント作品を強く意識。『魔界神父』でも取り入れた黒革手袋の殺人鬼スタイルを今作では全面的に取り入れ、さらに『サスペリアPART2』(1975年)を徹底的に模倣。幼少期に目撃した殺人の記憶が呼び起こす連続殺人、交霊術を開いた霊媒師の惨殺、さらに粘着質な描写のスプラッター・シーンなどを取り入れ、徹底的にアルジェント的な恐怖映画を作り上げてヒットした。ウォーカー作品の特徴ともいえる、殺人鬼が罰を受けずに次の犠牲者に忍びよる予兆を感じさせたまま終わるダークな結末も見終えた後に救いのない印象を残す。ウォーカー監督の『魔人館』(1983年)のVHSソフトが日本で発売されたときのジャケット裏面に書かれた解説ではウォーカーの代表作として『スキゾ』の題名が挙げられたが、『スキゾ』の日本版ビデオソフトが発売されることはなかった。なお、この作品にはシーラ・キースは出演していない。 1978年の『カムバック』The Comeback(1978年)でもふたたびアルジェント的なスリラーに挑戦。不気味な老婆の仮面を被った殺人鬼による残虐な連続殺人を描いた、ジャッロ調に展開するスプラッター・ミステリーである。殺人鬼のスタイルは『スキゾ』で見られたアルジェント的な黒装束ではないものの、壁の中に隠された部屋とそこに隠された白骨死体という要素は明らかに『サスペリア PART2』を思い出させる。さらに常連女優シーラ・キースのクライマックスでの演技は、露骨に『サスペリア PART2』で大女優クララ・カラマイが演じたカルロの母親の演技を模倣している。ちなみにこの作品ではアメリカの人気歌手ジャック・ジョーンズを主演に迎えたこともあって、ウォーカー監督の特徴といえる後味の悪い結末は採用されておらず、凡庸と言えば凡庸なハッピーエンドになっている。とはいえこの作品は恐怖映画として充分に高い水準を保っており、一見の価値はある作品として評価できる。
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