シミュレータ試験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 16:49 UTC 版)
「アメリカン航空191便墜落事故」の記事における「シミュレータ試験」の解説
フライトシミュレータを用いたシミュレータ試験が実施された。フライトデータレコーダのデータ、事故機を模擬した風洞実験から得られた空気力学特性、そして事故当時の気象条件がフライトシミュレータに反映された。このシミュレータ試験では、以下の条件が再現された: 第1エンジンとパイロンがなくなったことによる空気力学特性や操縦性の変化 左外側スラットの意図しない引き込み No. 1 および No. 3 油圧系統の損傷 また、失速警報装置は機能する場合と停止する場合のそれぞれがシミュレートされた。シミュレータ試験には、13人のパイロットが参加した。シミュレータ試験では70回の離陸と2回の着陸が実施された。それぞれの試行において、事故機のフライトデータレコーダから得られた飛行状況を再現するよう試みた。 シミュレータ試験の結果、159ノット (時速約294キロメートル) を超える速度では、非対称な左右の揚力を打ち消し、安定した飛行が可能であった。しかし、速度が159ノットまで下がると、失速が始まった。この際、ロールの開始を失速と認識できた場合は、多くのパイロットが機首を下げて加速して失速域から離脱し、操縦を回復できた。ただし、このときのパイロットは、本事故の状況を事前に承知していた。シミュレータ試験に参加した全てのパイロットは「第1エンジンと左翼を目視できず失速警報装置も働かなかった状況では、事故機のパイロットが、ロール開始を失速と認識して失速から回復させるのは合理的ではない」と証言した。事故調査委員会も同じ見解を示した。 スラットが左右非対称になった状態でのDC-10型機の離陸・着陸条件を見極めるため、アメリカ連邦航空局は、追加のシミュレータ試験を実施した。墜落直前のスラットの状態を再現したシミュレーション飛行を行い、約84回の離陸と28回の着陸を実施した。この試験では、失速警報装置とスラット不一致警報装置は正常に機能させた。シミュレータ試験では、事故時と同じ飛行特性であっても、事故当時のアメリカン航空の手順に従って着陸可能であることが示された。 着陸進入の最終段階における速度の余裕はわずかだが、非常に危険というほどではなかったとFAAは結論付けている。これは、飛行経路の調整などで必要な推力の余裕があり、利用可能であったからである。また、着陸進入中に片側のスラットを失うことは、操縦上の大きな問題にはならなかった。事故機のパイロットは、アメリカン航空が定めたエンジン停止時の手順を守って飛行速度を落としたことによって、結果的に失速域に入ってしまった。もしパイロットがより高い速度を維持していれば、墜落を回避できた可能性があった。
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