シミュレーション:軌道の偏りの再現
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/22 14:00 UTC 版)
「プラネット・ナイン」の記事における「シミュレーション:軌道の偏りの再現」の解説
極端に遠方にある太陽系外縁天体 (extreme-trans Neptunian objects, eTNOs) の軌道のクラスタリングとその大きな近日点距離は、プラネット・ナインの影響を含めたシミュレーションによって再現できることが分かっている。バティギンとブラウンによって行われたシミュレーションでは、ランダムな配置で始めた大きな軌道長半径を持つ天体群は、大きな軌道離心率を持った軌道にある重い遠方の天体によって、空間的に制約されたおおむね同じ線上、同じ平面上の軌道のグループに集められた。これらの天体の近日点は同じ方向に揃う傾向を示し、また軌道も同じ平面上に揃う傾向が見られた。これらの天体の多くはセドナのように大きな近日点距離を持つ軌道に入り、また予想外の結果として、いくつかは黄道面に対してほぼ垂直な軌道に入った。このような軌道を持つ天体が過去に観測されていることにバティギンとブラウンは後で気が付いた。 6つの eTNOs の軌道の分布を最もよく再現するシミュレーションのパラメータは、仮説上の遠方天体の質量を10地球質量とし、以下のような軌道に置いたものである。 軌道長半径はおよそ 700 au(公転周期が 18,520 年程度に相当) 軌道離心率はおよそ 0.6(近日点距離 280 au、遠日点距離 1,120 au に相当) 軌道傾斜角は黄道面に対しておよそ 30° 昇交点黄経はおよそ 94° 近日点引数はおよそ 141°、近日点黄経は 245° ± 12° これらのパラメータを仮定したプラネット・ナインのシミュレーションでは、太陽系外縁天体の特性によって異なる影響をもたらす。軌道長半径が 250 au より大きい外縁天体はプラネット・ナインに対して反対方向に強く揃った軌道になり、近日点がプラネット・ナインの近日点の反対側に来る。軌道長半径が 150〜250 au の天体はプラネット・ナインと緩く揃った軌道になり、近日点はプラネット・ナインの近日点と同じ方向に来る。軌道長半径が 150 au より小さい天体にはほとんど影響を及ぼさない。 プラネット・ナインが取り得る他の軌道の調査も行われており、軌道長半径が 400〜1,500 au、軌道離心率が最大で0.8まで、軌道傾斜角は広い範囲で調べられている。これらの軌道を仮定したシミュレーションでは多様な結果が得られている。バティギンとブラウンは、プラネット・ナインが大きな軌道傾斜角を持っていた場合は eTNOs も同様の傾きになりやすくなるが、軌道の反対側への偏り度合いは減少することを発見した。2017年の Juliette C. Becker らによるプラネット・ナインの存在を考慮したシミュレーションでは、プラネット・ナインの軌道離心率が小さい場合は eTNOs の軌道はより安定だが、軌道の反対方向への偏りはプラネット・ナインの軌道離心率が大きいほど強くなることが示された。また S. M. Lawler らはプラネット・ナインが円軌道を持っていた場合は軌道共鳴に捕獲される天体は少ないこと、大きな軌道傾斜角の軌道に到達する天体も少ないことを示した。さらに Jessica Cáceres らによる研究では、プラネット・ナインが近日点距離の小さい軌道を持っていた場合は eTNOs の軌道はよく揃うようになるが、近日点距離は 90 au よりも大きい必要があることを示した。プラネット・ナインの軌道要素と質量の考えられる組み合わせは多数あるものの、太陽系で観測されている外縁天体の軌道要素の偏りをより良く予測するシミュレーションは他にはない。さらなる遠方の太陽系外縁天体が発見されることによって、プラネット・ナイン仮説はさらに支持されるか、もしくは否定されるだろう。
※この「シミュレーション:軌道の偏りの再現」の解説は、「プラネット・ナイン」の解説の一部です。
「シミュレーション:軌道の偏りの再現」を含む「プラネット・ナイン」の記事については、「プラネット・ナイン」の概要を参照ください。
- シミュレーション:軌道の偏りの再現のページへのリンク