コルモゴロフ商
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 01:11 UTC 版)
点の間の位相的不可識別性は位相空間における同値関係を与える。どのような位相空間 X を考えるかに依らず、この同値関係で割って得られる商位相空間は常に T0 になり、この商空間は X のコルモゴロフ商 (Kolmogorov quotient) と呼ばれ、KQ(X) で表される。もちろん、もともとの X がそもそも T0 であったならば、KQ(X) と X とは自然 同相になる。圏論的に述べれば、コルモゴロフ空間の圏は位相空間の圏の反射的部分圏であり、コルモゴロフ商はその反射子である。 二つの位相空間 X, Y がコルモゴロフ同値であるとは、それらのコルモゴロフ商が同相となることを言う。位相空間に対する多くの性質が、このコルモゴロフ同値関係で保たれる(つまり、コルモゴロフ同値な X と Y について、X がそういった性質を満たすことと Y が同性質を満たすこととが同値になる)。他方、位相空間における別の性質は T0-性を含意する(つまり、空間 X がその性質を持つならば X は T0 でなければならない)ものが大半であって、わずかに(離散空間であるという性質のような)いくつかの性質がこの経験則の例外となっているばかりである。さらに良いことは、位相空間の上に定義される多くの構造が X と KQ(X) の間で翻訳することができる。というわけで、ある種の性質や構造を備えた非-T0 な位相空間があったならば、普通は同じ性質や構造を持った T0 な位相空間をコルモゴロフ商をとることで作れるのである。 先に挙げた L2(R) の例もこの特徴を備えている。位相的な観点でいえば、この例でもととした半ノルム線型空間にはたくさんの余計な構造が入っている(例えば、ベクトル空間の構造や、半ノルムおよびそれが定める(位相と両立する)擬距離や一様構造など)し、それらの構造が持つ様々な性質(例えば半ノルムが中線定理を満たすことや、一様構造が完備であることなど)も持っているのだが、この半ノルム線型空間が T0 でないことは殆ど至る所等しい二つの可測函数が位相的に識別不能だからなのであって、そのコルモゴロフ商(つまり実際の L2(R))は先ほど述べた余分な性質や構造はそのまま保って「中線定理を満たす完備半ノルム空間」となり、それだけではなくていまや T0 であるという性質が加わるのである。半ノルムがノルムとなる必要十分条件は考えている位相が T0 となることであったから、L2(R) は実際に「中線定理を満たす完備ノルム空間」(ヒルベルト空間と呼ばれる)になる。そして、数学(や量子力学などの物理学)が一般に扱うのは、このヒルベルト空間についてである、というわけである。さてこの例において記号 L2(R) が、この記号が示唆するところの自乗可積分函数そのものの成す空間ではなくて、可積分函数の同値類の成す空間であるところのコルモゴロフ商を指しているのが普通である、ということに注意されたい。
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