キャップ依存的な翻訳開始
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 22:43 UTC 版)
「真核生物の翻訳」の記事における「キャップ依存的な翻訳開始」の解説
翻訳開始は通常、真核生物翻訳開始因子(eukaryotic translation initiation factor, eIF)と呼ばれるいくつかの重要なタンパク質と、5'キャップ(mRNAの5'末端に結合したタグ)、そして 5' UTRとの相互作用を伴う。これらのタンパク質はリボソーム小サブユニット(40Sサブユニット)に結合し、mRNAを適切な位置に保つ。eIF3はリボソーム小サブユニットに結合し、リボソーム大サブユニット(60Sサブユニット)の時期尚早な結合を防ぐ役割を担う。またeIF3は、eIF4A、eIF4E、eIF4Gから構成されるeIF4F複合体と相互作用する。eIF4Gは足場タンパク質であり、eIF3と、他の2つのeIF4F構成因子と直接的に結合する。eIF4Eはキャップ結合タンパク質である。eIF4Eのキャップへの結合は、しばしばキャップ依存的な翻訳開始の律速段階であると考えられており、eIF4Eの濃度は翻訳調節の核となっている。ある種のウイルスは、eIF4GのeIF4Eに結合する部分を切断してキャップ依存的な翻訳を防ぎ、宿主の翻訳装置を乗っ取ってウイルスの(キャップ非依存的な)メッセージを選ぶようにする。eIF4AはATP依存的なRNAヘリカーゼで、リボソームがmRNAに形成された二次構造をほどくのを助けている。 ポリA結合タンパク質(poly(A)-binding protein, PABP)もまたeIF4Gを介してeIF4F複合体に結合し、真核生物のほとんどのmRNA分子のポリA鎖に結合する。このタンパク質は翻訳中のmRNAを環状化する役割を担っていると示唆されている。タンパク質因子を伴った43S開始前複合体(43S preinitiation complex, 43S PIC)はmRNA鎖に沿って、開始コドン(一般的にはAUG)に到達するまで3'末端へ向かって移動する(スキャニング)。真核生物と古細菌では、開始コドンによってコードされるアミノ酸はメチオニンである。メチオニル化された開始tRNA (methionylated initiator tRNA, Met-tRNAiMet)はeIF2によってリボソーム小サブユニットのP部位にもたらされる。eIF2はGTPを加水分解し、いくつかの因子の小サブユニットからの解離のシグナルを送り、やがて大サブユニットの結合が行われる。完全なリボソーム(80Sリボソーム)はその後、翻訳の伸長を始める。 タンパク質合成の調節は、eIF2-GTP-Met-tRNAiMet三者複合体(eIF2-TC)の一員であるeIF2の(αサブユニットを介した)リン酸化によって、部分的に影響を受ける。多数のeIF2がリン酸化されているとき、タンパク質合成は阻害される。別の調節因子は4E-BPであり、4E-BPはeIF4Eに結合してeIF4EのeIF4Gへの結合を阻害することで、キャップ依存的な翻訳開始を防いでいる。4E-BPの影響に対抗するため、成長因子は4E-BPをリン酸化してeIF4Eへの親和性を低下させることでタンパク質合成を可能にしている。 タンパク質合成が重要な開始因子の発現やリボソームの数によって全体的に調節されている一方で、個々のmRNAも調節的な配列要素の存在のために異なる翻訳率を持つ。このことの重要性は、酵母の減数分裂や植物のエチレンへの応答を含むさまざまな状況で示されている。さらに、酵母とヒトに対する近年の研究では、mRNA上の調節配列の多様性が翻訳調節のレベルでも影響を与えていることが示唆されている 。加えて、とりわけ構造を有する5' UTRを持つmRNAにおいては、DHX29やDed1/DDX3のようなRNAヘリカーゼが翻訳開始の過程に関与しているかもしれない。
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