大規模問題の分解法とは? わかりやすく解説

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大規模問題の分解法

読み方だいきぼもんだいのぶんかいほう
【英】:decomposition method for large-scale problems

概要

非常に多く変数制約条件をもつ最適化問題を, 一部変数または制約条件だけから成る小さな部分問題の列に変換して解く方法. その多くは, 現実大規模問題がしばしばもつブロック構造利用している. 単に大規模問題実際に解けるうになるだけでなく, もとの問題には見られなかった特徴的な構造部分問題現れて, 取り扱い容易になる場合がある. 特に, 各部問題独立解ける場合には, 並列アルゴリズム構成する有力な手段となる.

詳説

 現実世界発生する複雑な問題最適化問題としてモデル化すると,非常に多く変数制約条件をもつ大規模問題になることが多い.計算機用いてその解を求め場合目的関数制約条件式がすべて線形であっても変数制約条件の数が増えるとともに計算時間急激に増加するまた,それらの一部非線形の項が含まれると,問題解きにくさは飛躍的に増大する.そこで,大規模問題直接解くのではなく一部変数制約条件だけから成る小規模な,または,解きやすい部分問題逐次解くことにより,もとの問題の解を得ようとするアルゴリズム提案されている.それらを一般に大規模問題の分解法 (decomposition method for large-scale problems) と呼ぶ [3].

 現実大規模問題は,しばしば特徴的なブロック構造をもつ.たとえば,n\, 個の比較独立部分から成るシステムが共通の変数 x_{0}\, を含む場合は,


\begin{array}{llrll}
    \mbox{min.} & f_{0}(x_{0}) + & \sum_{j=1}^{n} f_{j}(x_{j})\\
    \mbox{s. t.} & g_{0}(x_{0})  & & \leq 0, \\
                 & g_{j}(x_{0}) + & h_{j}(x_{j}) & \leq 0  & 
                                         (j = 1, \ldots, n), 
\end{array}\, (1) \,


という最適化問題得られる.この問題は,変数 x_{0}\, 一時的に固定すると,



\mbox{min.} \quad f_{j}(x_{j}) \quad 
  \mbox{s. t.} \quad g_{j}(x_{0}) + h_{j}(x_{j}) \leq 0, 
\, (2) \,


という n\, 個の部分問題分解されるベンダース分解法 (Benders decomposition method) はこのような性質利用しており,関数 f_{j}\, , h_{j}\, 線形ならば,有限回の反復でもとの問題の解に到達できることが知られている.さらに,分解され部分問題はたがい独立であり,それらは比較大きい(粒度が粗い)問題となるため, MIMD (multiple instruction stream multiple data stream) 型の並列計算機効率よく実行できる

 また,システム全体にまたがる付加的な制約条件存在する場合は,


\begin{array}{lrll}
    \mbox{min.} & f_{0}(x_{0}) + \sum_{j=1}^{n} f_{j}(x_{j}) &         & \\
    \mbox{s. t.} & g_{0}(x_{0}) + \sum_{j=1}^{n} g_{j}(x_{j}) & \leq 0, \\
                 &                             h_{j}(x_{j})   & \leq 0  & (j = 1, \ldots, n),  
\end{array}\, (3) \,


という最適化問題得られるが,g_{j}\, を含む制約条件ラグランジュ緩和より目関数組み込み, さらに変数 x_0\, 一時的に固定すると, 問題 (2) に類似したn\, 個の独立部分問題分解される.とくにすべての関数線形ならば,問題 (3)部分問題の解を用いて効率的に解けることが知られており,ダンツィク・ウルフ分解法 (Dantzig-Wolfe decomposition method) と呼ばれている.

 一方大規模複雑な問題から取り扱いやすい構造をもつ部分のみを抽出して部分問題構成し,これを逐次解くことによりもと問題の解を得ようとする方法は,分割法 (splitting method) と呼ばれている.分割法は,問題 (1) や (3) のようなブロック構造もたない問題にも適用可能である.また,並列処理可能な部分問題構成すれば,それらはしばし小規模な粒度の細かい)問題となり,SIMD (single instruction stream multiple data stream) 型の大規模並列計算機用いて効率的に実行できる

 分割法は,線形方程式対す反復法として,線形代数分野において古くから研究されている.行列 M\, ベクトル q\, により定義される線形方程式


M x + q = 0\,


に対して条件 M = B + C\, 満たす行列 B\, , C\, 選び方程式



B x + C x^{(k)} + q = 0 
\, (4) \,


の解を x^{(k+1)}\, とおくことにより点列 \{ x^{(k)} \}\, 生成する方法は,行列分割法 (matrix splitting method) と呼ばれる行列 B\, を (ブロック) 対角行列選べば方程式 (4) は並列的に解けるので,大規模問題対す効率的な解法を得る.行列分割法は,線形相補性問題線形変分不等式問題にも拡張できる

 一般凸計画問題に対しても,分割法に基づくアルゴリズム構成できる.凸計画問題は,最適性条件考慮すると,ある写像 F: \mathbf{R}^{n} \rightarrow \mathbf{R}^{n}\, 用いて



  \mbox{find} \quad x \in \mathbf{R}^{n} \quad 
  \mbox{s. t.} \quad 0 \in F(x), 
\, (5) \,


記述される条件 F = G + H\, 満たす写像 G\, , H\, 選び部分問題



\mbox{find} \quad x \in \mathbf{R}^{n} \quad 
  \mbox{s. t.} \quad 0 \in G(x) + H(x^{(k)}), 
\, (6) \,


の解を x^{(k+1)}\, とする反復法は,作用素分割法 (operator splitting method) と呼ばれる写像 G\, 分離可能ならば部分問題 (6) は並列的に解けるので,大規模な凸計画問題対す効率的な解法得られる

 問題 (5) に対す有力な反復法に,近接点法 (proximal point method) がある.近接点法では,単調非減少正定数の列 \{ \lambda^{(k)} \}\, 定め問題


\mbox{find} \quad x \in \mathbf{R}^{n} \quad 
\mbox{s. t.} \quad ( x^{(k)} - x ) \, / \, \lambda^{(k)} \in F(x),\,


の解を x^{(k+1)}\, とおく.作用素分割法近接点法は,一般的な最適化問題クラスである変分不等式問題にも拡張できるまた,これらの方法組合せることによりさまざまな並列アルゴリズム(parallel algorithm (nonlinear programming)) を構成できること知られている.このような考え方に基づく並列アルゴリズムについては,参考文献 [1, 2, 4] に詳しい解説がある.



参考文献

[1] D. P. Bertsekas and J. N. Tsitsiklis, Parallel and Distributed Computation: Numerical Methods, Prentice-Hall, 1989.

[2] Y. Censor and S. A. Zenios, Parallel Optimization: Theory, Algorithms, and Applications, Oxford University Press, 1997.

[3] J. F. Shapiro, Mathematical Programming: Structures and Algorithms, John Wiley & Sons, 1979.

[4] 山下栄福島雅夫,「数理計画における並列計算」,朝倉書店2001

「OR事典」の他の用語
非線形計画:  大域的収束性  大域的最適化  大域的最適解  大規模問題の分解法  安定性理論  実行可能集合  局所的最適解



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