「生体防御学」の確立
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/15 00:52 UTC 版)
野本教授は生命科学を理解するための新しい学問領域として「生体防御学」を提唱し、その理論体系である生体防御論の確立と科学的実証を行ってきた。生体防御論では、生体防御機構を、外来異物あるいは異物的自己を排除することにより生体の恒常性を維持するメカニズムの全体と位置付けている。現在では、この「生体防御」が学術用語として定着し、大きな学問領域として認知されるに至った。 野本教授の提唱した生体防御論により、生体が異物を排除するメカニズムを実際の生体内の反応にそくして理解する方法論がはじめて確立した。生体防御論が提唱される前は、異物排除のメカニズムを抗原得異的免疫反応(狭義の免疫)のみで説明しようとする風潮があり、生体防御機構の基盤となるべき非特異的防御反応の重要性が見過ごされがちであった。また、生体防御機構の重要なターゲットは微生物や腫瘍など、それ自身の生物活性が生体防御機構に多く影響をおよぼす異物であるにも拘わらず、旧来の免疫学では精製蛋白などに対する反応が研究対象の中心であり、実際に生体防御機構が異物と戦う状態とは大きく乖離していた。 野本教授は、生体防御論の立場から感染や腫瘍に対する防御機構を解析することにより、現実にそくしたダイナミックなシステムとして生体防御を把握し、この学問分野の進展に大きく寄与した。この生体防御論に基づく研究から、生体防御機構を理解するうえで根幹となる重要な概念が生み出された。連続的バリアー、比重論的位置付け、場選択性、がそれである。 連続的バリアーとは、異物侵入後、経時的に異なったエフェクターが働くことにより、効率の良い異物排除が起こる現象を示す。連続的バリアーの研究で明らかとなった重要な業績として、プリミティブT細胞(PT)反応の発見があげられる。 比重論的位置付けとは、異なった異物の排除には異なった生体防御エフェクターを必要とすることを明確にした概念である。病原体の病原性の違いにより、必要とされる生体防御エフェクターは異なっている。このような観点から生体防御機構を見る視点は、臨床的に感染等に対処する際に重要なアプローチであり、実際にこの概念を応用して、各種のBiological Response Modifier(BRM)の開発と臨床応用に大きな成果をあげた。 さらに、場選択性とは、生体防御反応が起こっている場に置いてはじめて生体防御を活性化/調整する分子が有効に働くことを示した概念である。
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