持続可能な開発のための文化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/01 01:32 UTC 版)
観念
2000年の「国連ミレニアム・サミット」で策定されたミレニアム開発目標(MDGs)が2015年で終了することをうけ、2014年の国連総会で新たな開発目標「ポスト2015開発アジェンダ」[1]が検討され、ユネスコも「ポスト2015開発アジェンダの文化」[2]を発表。その実践的な試みとして「持続可能な開発のための文化(文化と開発)」がある。
具体的には、ユネスコ所管事業である世界遺産・無形文化遺産・記憶遺産や創造産業を支援する創造都市が現代まで持続(継承・発展)してきた理由として、これらの中にこそ「人類叡智の蓄積」「ノウハウ」があると捉え、それら「文化的財」に「環境財」を交え文化産業として活かすことで持続と開発の両立を実現しようと模索するものである。
また、持続可能な開発のための文化を達成するには、ユネスコのような国際機関や国家・自治体といった行政のみならず、一般市民個々人の意識変革こそが重要で、文化相対主義に基づく異文化コミュニケーションが不可欠であり、「文化多様性」という考えに帰結した[補 1]。異文化理解のための手法として、実際に体感する観光、知の宝庫である図書館・博物館の活用、インターネットを介した仮想社会的ネットワーク上での情報共有を上げている。
特にユネスコで最も成功した事業として影響力のある世界遺産をカルチュラル・スタディーズ、すなわち「学習観光」の場として積極的に利用し、社会問題意識の情操と途上国での収益源とするという保護一辺倒からの転換を掲げている。[3]
略史
ユネスコが持続可能な開発を文化面で実行する方針を言及したのは、1995年に「文化と開発に関する世界委員会」がまとめた『Our Creative Diversity(我々の創造的多様性)』[4]によってで、1998年にスウェーデンのストックホルムで開催された「開発のための文化政策に関する国際会議」で「開発のための文化政策に関する行動計画」として合意された[5][補 2]。
1998年はユネスコと世界銀行による国際会議「持続可能な発展における文化」も開催され、「持続可能な開発のための文化および文化遺産の保護」が確認された。
2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で当時のフランス・シラク大統領が、「文化が、環境・経済・社会と並ぶ、持続可能な開発の第4の柱である」と述べ、そこで採択された実施計画で「持続可能な開発を達成するために不可欠の要素の一つとして文化多様性がある」と掲げられた[5]。
これをうけ2005年に文化多様性条約[6]が成立[補 3]。 持続可能な社会の構築を目指す国際的な動きの中で、環境・経済・社会の各分野にわたる諸課題に取り組むに当たっては、文化多様性に配慮した開発のアプローチが鍵になると指摘されている。
また、2004年には「文化のためのアジェンダ21」をユネスコと国連ハビタットが作成。
「文化の和解のための国際年」であった2010年開催の上海万博で、国連館パビリオン内にブース出展したユネスコは万博のテーマ「より良い都市、より良い生活」を引用し、「文化遺産と都市再生」と題して文化の多様性と適切な発展(開発力)が社会的結束や平和をもたらすと主張する展示を実施した[7]。
同じく2010年に開催された「国連ミレニアム開発目標サミット」を経て、国連総会で「文化と開発に関する決議(文化のミレニアム開発目標)」が採択(以後、2011年と2013年に追加と改編)[8]。
そして2012年、ブラジルのリオデジャネイロでの「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」[9][補 4]をうけて採択した「リオ+20の文化」、京都での「世界遺産条約40周年記念シンポジウム『世界遺産と平和、持続可能性』」[10]と、2013年にユネスコが中国の杭州市で開催した「文化:持続可能な開発の鍵」(杭州会議)[11]等での検討もあり、同年のユネスコ総会および2014年のユネスコ執行委員会を経て「持続可能な開発のための文化(文化と開発)」が取りまとめられた[12]。
文化アジェンダ
- 文化のためのアジェンダ21
- 文化と人権 :個人の尊厳を尊重し、無益な争いを避け文化を維持する
- 文化とガバナンス :有形無形の文化を相互理解し管理する
- 文化、持続可能性と地域 :地域社会に根差す文化を活用する
- 文化と社会参加 :個々人が文化的な意識を持ち、社会運動に関与する
- 文化と経済 :無秩序な経済から離脱し、富の再分配などにより文化を保護する
- ポスト2015開発アジェンダの文化
- 持続可能な開発を考える際に文化的側面を付加し、エネルギー資源の持続的な管理に伝統的な自然科学的知識を活用する
- 持続可能な開発を理解してもらうため、文化遺産との係わりに触れながら保全する
- グリーン経済と緑の雇用の促進、都市再生、創造産業の育成、文化遺産を活かした地域発展
- 生活様式・生産活動・消費行動における文化的要因を配慮し、持続可能な社会を構築する
引用・参照
- ^ ポスト2015開発アジェンダ - UNDP
- ^ The way forward: a human centred approach to development - UNESCO(英語)
- ^ World Heritage and Sustainable Tourism Programme(世界遺産と持続可能な観光プログラム) - UNESCO(英語)
- ^ Our Creative Diversity - UNESCO(英語)
- ^ a b 持続可能な社会を支える文化多様性 寺倉憲一 - 国立国会図書館 総合調査「持続可能な社会の構築」 (PDF)
- ^ 文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約 (PDF)
- ^ SHANGHAI WORLD EXPO 2010 - UNESCO(英語)
- ^ Culture and Development Resources - UNESCO(英語) ※各ResolutionのPDFをダウンロード
- ^ リオ+20とその後:持続可能な未来に向かって - 国連広報センター (PDF)
- ^ 世界遺産条約採択40周年記念最終会合報告書 - 外務省 (PDF)
- ^ The Hangzhou International Congress Culture : Key to Sustainable Development - UNESCO(英語)
- ^ Culture and Development - UNESCO(英語)
- ^ ユネスコ条約 (PDF)
- ^ The Hangzhou Declaration: Heralding the next era of human development - UNESCO(英語)
- ^ Sustainable Development and Environmental Change - UNESCO(英語)
- ^ Local and Indigenous Knowledge Systems - UNESCO(英語)
- ^ わかる!国際情勢 №21 2008年12月24日 - 外務省 Archived 2015年1月18日, at the Wayback Machine.
- ^ 12 Risks That Threaten Human Civilisation - Global Challenges Foundation(英語)
- ^ 70th anniversary, UNESCO - UNESCO(英語版)
- ^ Tentative Lists submitted by States Parties as of 15 April 2015, in conformity with the Operational Guidelines (PDF) - UNESCO World Heritage Centre 39th session of the Committee Working documents(WHC-15/39.COM/8A)
- ^ SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ
- ^ The cooperative key to sustainable development(英語)
- ^ UNESCO 's contribution to post-2015 - UNESCO(英語)
- ^ Bringing science and development together through original news and analysis - Sci Dev Net(英語)
- ^ Water Sector Organizations discuss SDGs with European Commissioner - UNESCO-IHE(英語)
補稿
- ^ 文化多様性を推進するEU域内での欧州統合に際しては欧州懐疑主義が生まれ、文化多様性を否定し単一文化主義を主張する意見もある
- ^ 「開発のための文化政策に関する国際会議」がストックホルムで開催されたのは、1972年にストックホルムで国際連合人間環境会議が開催され初めて国際的に環境問題を議論したことを顕彰する意味合いで選ばれ、この会議は同年に世界遺産条約が制定されるきっかけともなった
- ^ 文化多様性条約が目指すところは「文化権(有形無形の伝統あるいは固有文化の保護・新たな文化の創造・文化享受と選択の自由)の確立」・「異文化を尊重し調和のとれたグローバリズム」で、日本は締結に向けて検討中。「文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約の締結に向けた取り組みについて(建議)」(文部科学省)参照
- ^ 「リオ+20」とは、1992年の環境と開発に関する国際連合会議(リオデジャネイロサミット)から20年後に再びリオで「国連持続可能な開発会議」が開催されたことにより付けられた通称。リオサミットではアジェンダ21が採択された
- ^ 中国では杭州会議をうけ「製造から創造へ(中国制造走向中国创造)」を標榜するようになった
- ^ 稼働遺産#今後の課題と対策内の創造都市の記述も参照
- ^ 資本主義を否定した文化大革命は文化持続性も否定し、文化闘争は経済混乱を引き起こしたことでさらなる文化崩壊を招いた
- ^ 中国では都市部の開発に伴い、鬼城(ゴーストタウン)や城中村(スラム)といった現象も問題化している
- ^ 多民族国家であるアメリカは施策としては文化多様性を採るが、大きな収入源であるコンテンツ産業がアメリカニゼーションを否定され受け入れられなくなることを危惧し文化多様性条約は未締結。しかし、北朝鮮を描いた映画『ザ・インタビュー』の公開に際し、北朝鮮によるものと思われるサイバー攻撃を被ったことで、表現の自由を正当化するため締約を求める声もある
- ^ ムハンマド風刺画に対する報復としてのシャルリー・エブド紙襲撃テロ事件をうけ、ユネスコは文化戦争へと発展することを憂慮している
- ^ 資本主義・社会主義に対する第三の経済システムとして、利子を取らず篤志家による寄付ワクフや一般人の自発的寄付サダカによるイスラム経済に基づく文化事業の在り方も注目される
- 持続可能な開発のための文化のページへのリンク