ロバ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 00:19 UTC 版)
生態・特徴
乾燥した環境や山道などの不整地に強い。家畜としては、比較的少ない餌で維持できる。寿命は長く、飼育環境によっては30年以上生きることがある。
ロバとウマは気質に違いがあると言われる。ウマは好奇心が強く、社会性があり、繊細であると言われ、反してロバは新しい物事を嫌い、唐突で駆け引き下手で、図太い性格と言われる[2]。実際、ロバのコミュニケーションはウマと比較して淡白であり、多頭曳きの馬車を引いたり、馬術のように乗り手と呼吸を合わせるような作業は苦手とされる[2]。
野生のウマは、序列のはっきりしたハレム社会を構成し群れを作って生活するが、主に食料の乏しい地域に生息するロバは恒常的な群れを作らず、雄は縄張りを渡り歩き単独で生活する[3]。ロバの気質はこうした環境によって培われたものと考えられる[2]。ただし、アメリカのジョージア州にあるオサボー島で再野生化したノロバのように、豊富な食料がある地域ではハレム社会を構成する場合もある[3]。
益獣としての使用
家畜化
最初に家畜として飼われ始めたのは、約5000年前に野生種であるアフリカノロバを飼育したものとされる。古代から乗用、荷物の運搬などの使役に重用されたが、ウマに比べると従順でない性質があり、小型でもあるのが家畜として劣る点であった。逆にウマよりも優れていたのが、非常に強健で粗食に耐え、管理が楽な点であった。
野生種の中で現存するのは、ソマリノロバ (Equus africanus somaliensis) のみであり、ソマリアとエジプトの国境地帯に見られたが、ソマリア内戦の影響で激減したため、現在はその大部分がイスラエルの野生保護区で飼育されている。一方、ハワイ島には家畜から野生化したロバが多数生息している。
飼い主に捨てられた無数のロバが野生化した結果、最近ではブラジル北東部各地でトラブルを引き起こしている[4]。
ユダヤ人との関係
荒涼としたステップ地帯、砂漠地帯、あるいは山岳地帯などを放浪していたユダヤ人は、ロバを知る古い民族のひとつであり、そのため彼らの伝承や戒律などにもロバに関わるものが少なからずある。
古代、ユダヤ人たちの間では、ロバに乗ることを禁じた日があった。イエスがキリスト(ユダヤの王)として、ロバに乗って過ぎ越しの日にエルサレムに入る記述が聖書にある。
前近代のイスラム社会では時の施政者次第でユダヤ教徒やキリスト教徒への迫害が行われ、その際にロバ以外への騎乗を禁じられる事もあった。
護衛犬の代わり
スイスやドイツなどの欧州の国々では[5]、護衛犬の代わりにロバを使っている地域もある。ロバはオオカミと犬に対してきわめて攻撃的なのだという[6]。
欧米では護衛ロバの事を「ガード・ドンキー」と呼んでおり、比較的小規模の牧場や家庭菜園レベルの放牧地で護衛犬の代替として導入することが推奨されている。初めて導入する際には雌ロバや去勢済みの雄ロバが用いられるが、家畜の群れの中で生まれ育ち、周囲の家畜を友とする縄張り意識を獲得した雄ロバが護衛ロバの候補としては最適とされている。護衛ロバは護衛犬と比較して「集団で襲ってくる野犬やオオカミ、ピューマやクマなど自分より大きな捕食者には対抗出来ず、アライグマや鳥などの小動物による農作物の被害を農場主に積極的に通知する事も無い」事が短所であるが、「一晩中吠え続けて近所に騒音被害を及ぼす様な事は無く、大型の護衛犬に馴れていない訪問客にとっては物理的にも安全である」事が長所とされる。護衛犬のように家畜の回りをパトロールする習性は持たず、捕食者が侵入するまでは家畜と共に牧草を食べているが、鋭い聴覚で捕食者の侵入を察知すると、自分の縄張りが侵されたと判断して侵入者に真っ直ぐ向かっていく性質を持つ。ロバは本能的にイヌ属の動物に対して攻撃的であり、ウマのように自分達だけ真っ先に逃げ出してしまう事もなく、単独で牧草地への侵入を試みるコヨーテや野犬、キツネやハイエナ等に十分に対峙できる能力を有しているとされる。ロバはイヌ属と対決する際、首に噛み付いて振り回したり、噛みながら前足で踏み潰す様に激しい攻撃を繰り返す事が特徴で、家畜の群れに導入したばかりの雄ロバの場合、ヒツジ等の家畜や護衛犬ではない普通の飼い犬がうっかり近づくと激高して踏み殺してしまう事もあるため、護衛ロバを育成する際には農場主にロバの生態や本能に対する正しい知識が必要になるという[7]。なお、南米諸国や米国西部では護衛ロバとほぼ同じ用途で雌や去勢済みの雄リャマが護衛リャマとして育成される。
食用
中国、特に華北においては、ロバは一般的な食材のひとつとなっている。多くの場合、老いて輸送などの労務が難しくなったものが食用にされる。このため、単に炒めるだけの料理では食べづらく、煮込み料理か餃子や肉まんの具や肉団子のようなミンチ肉料理にされることが多い。そのままではある程度の臭みがあるが、下ごしらえをうまくすることで中国で「上有龍肉、下有驢肉」(天には竜の肉があり、地上にはロバの肉がある)と言われるほどの美味に仕上げることができる[9]。
- 臘驢肉(ラーリューロウ làlǘròu)
- 中華人民共和国山西省長治市の名物食材で、ロバ肉の塩漬けを燻製にしたもの。
- 驢肉火焼(リューロウフオシャオ lǘròu huǒshāo)
- 中華人民共和国河北省保定市の名物料理で、ロバ肉を使ったハンバーガー風の軽食。「火燒」と呼ばれるパンの腹を割って、中に煮込んだロバ肉をはさんで食べる。近年は陝西省の「白吉饃」(バイジーモー)と呼ばれる白く押しつぶしたように焼いたパンを使う変種も出ている。
- 肴驢肉(ヤオリューロウ yáolǘròu)
- 中華人民共和国山東省広饒県などの名物料理で、ロバ肉を煮込んで、ゼラチン質と共に冷やし固め、スライスしてたべる、アスピック(煮こごり)のような前菜料理。
ロバ乳
ロバ乳には、たんぱく質が多く含まれ、国連からも、牛乳アレルギーのある人への優れた代用ミルクとして認められている[10]。
薬用
ロバの皮から毛を取り、煮つめて取る膠(にかわ)は、漢方で「阿膠」(あきょう)[11]といい、主成分はコラーゲンで、血を作り、止血する作用があると考えられている。このため、出血を伴う症状や、貧血、産後の栄養補給、強壮、皮膚の改善などの目的で、服用、配合される。阿膠は薬用以外に、これを加えた柔らかい飴(阿膠飴)なども作られている。
薬用としての皮を目的としたロバの屠殺により、ロバの個体数が減っており、2024年、アフリカ連合はロバ皮の取引を禁止した[12]。ロバ保護のためロバの皮の輸送を禁止した航空会社もある[13]。
減少
阿膠の原料となるロバの皮膚の需要増加に伴って、ロバの頭数が世界各地で減少している。中国では、1992年時点で1100万頭を超えていたロバの頭数が2017年には76.3%減の260万頭に減少。南米ブラジルでは2007年から2017年までの間にロバの頭数が約28%減少した。2011年から2017年までの6年間で、中央アジアのキルギスではロバの頭数が約53%減少し、アフリカ南部のボツワナでも37%減少している [14]。
- ^ “兎馬/驢 ウサギウマ”. 小学館デジタル大辞泉. コトバンク. 2017年9月23日閲覧。
- ^ a b c 木村 2002, pp. 5–8.
- ^ a b 木村 2002, pp. 71–72.
- ^ “ブラジルを悩ますロバの野生化” (2016年1月26日). 2021年6月6日閲覧。
- ^ Q&A - 日本オオカミ協会
- ^ “家畜被害の懸念はオオカミ復活反対の理由になるのか?” (2011年12月19日). 2021年3月13日閲覧。
- ^ Modern Farmer’s Guide to Guard Donkeys - Modern Farmer
- ^ “北イタリアの珍しい料理を食べてみよう!” (2015年3月29日). 2021年12月30日閲覧。
- ^ “人気のロバ肉で偽装発覚、ロバ肉バーガーの本場に衝撃 中国”. AFP. 2021年4月25日閲覧。
- ^ “ロバのチーズは健康に良くて美味? ただし値段も世界一 セルビア” (2019年6月29日). 2021年3月6日閲覧。
- ^ “中国伝統薬でロバ皮需要増 アフリカで生息数激減”. AFP (2022年7月3日). 2022年7月3日閲覧。
- ^ “'Brutal' donkey skin trade banned by the African Union”. 20240223閲覧。
- ^ “EMIRATES IMPLEMENTS BAN ON CARRIAGE OF DONKEY SKINS”. 20240512閲覧。
- ^ “ロバが世界的に激減......中国古来の生薬としての需要が高まり” (2019年12月15日). 2021年6月6日閲覧。
- ^ “Don't be a donkey: How to make sure your vote is counted correctly” (英語). The Canberra Times (2022年5月17日). 2022年5月18日閲覧。
- ^ “【イソップ物語】子イヌのまねをしたロバ〜「自分らしさ」を大切に | 1万年堂ライフ”. 1万年堂出版 (2022年2月23日). 2024年2月23日閲覧。
- ^ “おうさまのみみはろばのみみ : ユーゴスラビア民話”. 国会図書館サーチ. 2020年7月6日閲覧。
- ^ まんが世界昔ばなし 1977年2月17日放送
- ^ “「ろばくんのうた/楠トシエ・石川進・愛川欽也」の歌詞 って「イイネ!」”. www.uta-net.com. 2024年5月10日閲覧。
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