デューラーの木版画とは? わかりやすく解説

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デューラーの木版画

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/17 18:19 UTC 版)

犀 (木版画)」の記事における「デューラーの木版画」の解説

モラヴィア出身商人で、印刷業者でもあったヴァレンティン・フェルナンデスはサイリスボン到着後すぐに見に行き1515年6月ニュルンベルク住んでいた友人サイのことを書いた書簡出している。ドイツ語書かれ原本書簡現存していないが、イタリア語翻訳され写しフィレンツェ国立中央図書館残されている。同じ頃に筆者不明書簡が、同じく作者不明サイスケッチとともにリスボンからニュルンベルクへと送られた。デューラーはこの書簡スケッチニュルンベルク見ている。この書簡スケッチをもとに、デューラー自身一度サイを見ることなしに、ペンインクによるスケッチ2枚描き上げた。そして2枚目のスケッチから、構図左右逆にして木版画制作されのである。 この木版画にはドイツ語説明書きがあり、そこには大プリニウス著作からの引用含まれている。 西暦1513年5月1日原文ママ)に、偉大なポルトガル王マヌエルによってインドからサイ呼ばれる動物もたらされた。以下は正確な説明である。小さな斑点があるカメのような色合いで、身体の大部分分厚いウロコ覆われている。ゾウ同じくらいの大きさだが脚はより短く、傷つけるのは難しい。鼻先には強靱尖ったツノがあり、石に擦りつけて鋭く磨き上げるサイゾウ天敵である。ゾウサイ恐れており、両者遭遇するサイツノ振りかざして突進しゾウ腹部食らいつくゾウはこの攻撃から身を守る術を持たないサイはほぼ完璧な装甲持ちゾウサイ危害加えることはできないサイ頑健獰猛で、狡猾な動物である。 デューラーの木版画は実在サイ正確に表現したものではない。デューラーサイを、喉当て胸当てが鋲止めされた鎧のような強固な装甲覆われ動物として描いた不正確な箇所は他にも背中前方捻れ小さなツノ、うろこに覆われた脚、身体極端に短いことなどが挙げられるこのような特徴本物サイには見られないしかしながら全身を守る西洋の鎧ゾウ立ち向かうサイモデルとしてポルトガル作製されたかも知れずデューラー描いたこのような表現は、逆説的に鎧の描写として正確であった可能性もある。もしかしたらデューラー表現した「鎧」はインドサイの厚い表皮のしわを再現したものか、あるいは他の明らかな誤り同様にデューラー単純な誤解想像産物だったものかも知れない。さらにデューラーサイウロコ覆われているかのような質感表現している。これはデューラーインドサイざらついた、ほぼ無毛表皮表現しよう試みたかも知れない。上脚部肩部にはイボ状の突起物見られるが、これはインドからポルトガルへの4か月輸送中に狭い場所に閉じこめられていたために罹病した皮膚炎そのまま表現している可能性がある。 デューラーニュルンベルク滞在していたときとほぼ同時期にアウクスブルク滞在していたドイツ人画家版画家ハンス・ブルクマイアー作製した、もう一枚サイ木版画がある。当時ブルクマイアーはリスボン在住商人と書簡の遣り取りをしていたが、デューラー同様にサイに関する書簡スケッチを目にしたのか、実際にポルトガルサイ観察したかどうか分かっていない。ブルクマイアーの木版画デューラーのものと比較するサイ実物に近い。デューラーの木版画に見られる架空2本目ツノなど余計な付け足し見られず、サイ拘束し繋ぎとめていた脚鎖が表現されている。しかしながらデューラー作品はより迫力のあるもので、ブルクマイアーの作品の評判上回った。ブルクマイアーの木版画コピー1枚だけしか現存していないのに比べデューラーオリジナル木版その後何度もコピーされている。デューラー最初木版画自身作製し、その木版画には5行の説明書きが添えられている。この説明書きが、1528年デューラー死去した後も何度もコピーされ作製され木版画と、デューラーオリジナル木版画とを識別する相違点である。1540年代作製され2種類木版画16世紀後半作製され2種類木版画 では説明書きが6行となっている。1620年ごろに、単色刷り1枚木版しかなかったデューラーの木版画に明暗与える(キアロスクーロ)ことを目的として追加木版製作され、この木版用いてウィリアム・ジャンセンが作製した版画アムステルダムで見ることができる。デューラーの手によるオリジナル木版サイ脚部虫食い穴ができ、ひび割れてしまったが、その後長く使い続けられた。 『犀』はサイ描写誤り多かったにもかかわらず非常に有名な作品で、これは18世紀後半になって正確にサイ描写されるまで続くことになる。デューラーは『犀』を製作するにあたって美しく緻密な作品ができる銅版用いたエングレービングではなく、おそらく故意木版画選択しており、これは木版画のほうが大量印刷適していたためと考えられている。この作品はゼバスチアン・ミュンスター(en:Sebastian Münster)の『コスモグラフィア(Cosmographiae)』 (1544年)、コンラート・ゲスナーの『博物誌en:Historiae animalium (Gesner))』(1551年)、エドワード・トプセル(en:Edward Topsell)の『四足歴史(The History of Four-footed Beasts)』(1607年)など、多く博物学者地理学者たちの著作引用されてきた。他にデューラーの『犀』をもとにしたことが明白なのは、1536年7月アレッサンドロ・デ・メディチサイモチーフとしたエンブレムである。このエンブレムには「勝利なき帰還なし(Non buelvo sin vencer、古スペイン語)」というモットー刻まれている。パリにはデューラーの『犀』をベースとした彫刻がある。フランス人彫刻家ジャン・グージャンがデザインした高さ21mのオベリスクで、1549年に新王アンリ2世行幸祝ってサン・ドニ通りにあるセパルカー教会正面立てられた。また、『犀』は、ライデン大学教授で、動物学者医学者ヤン・ヨンストンの『動物図譜』にも掲載された。『動物図譜』は江戸時代の日本にも伝わり谷文晁模写をした『犀図』が残されている。谷文晁よりも早く幕府侍医蘭学者桂川甫周1782年拡大模写した彩色図を作成し漢文説明加えている。 『犀』の評価とそれをもとに派生した作品の数は、生きたサイヨーロッパ輸入され大衆目に触れる機会多くなった18世紀中盤以降低いものとなり、サイイメージはより正確なものに置き換えられることとなる。ロココ期のフランス人画家版画家ジャン=バティスト・ウードリーJean-Baptiste Oudry)は、17年ヨーロッパ中を巡業したインドサイクララ1749年実物大描きイギリス人画家ジョージ・スタッブスも、1790年頃にロンドン大きなサイ絵画描いている。この2枚絵画はデューラーの木版画より正確で、人々サイ対すイメージそれまでデューラー作品よるものから、実物サイイメージへと徐々に変化していった。特にウードリーの絵画は、フランス人博物学者ビュフォン著書広く模倣された『一般個別博物誌』に記載されている図像大きな影響与えている。 1790年にはスコットランド人旅行家紀行文作家ジェームス・ブルース(en:James Bruce)がアフリカ流れナイル川扱った紀行文Travels to discover the source of the Nile』で、「あらゆる誤り取り除かれたのは喜ばしいことだ」「サイ奇怪間違った姿で描かれ続けたのはデューラー作品原因である」として『犀』を非難している。しかしブルースデューラーの『犀』が誤りであるとしたのはアフリカシロサイとの比較においてであり、インドサイシロサイとではその外見明白に異なっている。従ってシロサイとの比較によってデューラー非難することが適当とは言えないのは明らかである 。 日本でも薔薇の名前』の作者として有名な記号学者ウンベルト・エーコは、デューラー描いたウロコ重なり合ったのような装甲」は、たとえサイをよく知る人であってもサイ表現する上で必要な要素であり、「このような様式化されたともいえる「記号」だけが、人々にとって「サイ」を理解する象徴なりえる」とした。さらにエーコ実在サイ表皮見た目よりも荒くデューラーが『犀』に表現した鎧やウロコ見た目上のものを表現していると指摘している。 1930年代までデューラーの『犀』は、サイ正確に表現しているとしてドイツ学校教科書採用されていた。今でもドイツ語ではインドサイは「装甲覆われサイ(Panzernashorn)」と言われている。『犀』は未だに芸術への影響大きくサルバドール・ダリ1956年製作した彫刻『Rinoceronte vestido con puntillas』が、2004年からスペインマルベーリャのプエトロ・バヌースに展示されている。

※この「デューラーの木版画」の解説は、「犀 (木版画)」の解説の一部です。
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