「外へのジハード」の実際とは? わかりやすく解説

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「外へのジハード」の実際

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/03 16:37 UTC 版)

ジハード」の記事における「「外へのジハード」の実際」の解説

上述たように、「ジハード」は多義的なことばであり、イスラーム歴史にあってはそれが善用されることもあれ悪用されることもあった。 歴史的にみれば、全イスラーム共同体ジハード意識高め異教徒との戦いあたったのは、初期イスラームの時代ビザンツペルシアへ侵略戦争であり、ジハード擁護論からした場合の、イスラーム広めるための聖なる戦い、である大征服時代、および中世ヨーロッパキリスト教世界が、聖地イェルサレム奪回目的として7回にわたって中東地域派遣した十字軍との戦い時代代表例なものであるイスラームの拡大しはじめ時期にあってはアッラーへの道をはずれることなく」、イスラーム教徒にとっての異教徒戦って死ぬことは殉教とされ、殉教者には天国約束された。しかし、11世紀末に十字軍エルサレム王国建国し、キリスト教徒パレスチナ占領したころにはジハード理想ついえており、各所より散発的にイスラーム君主たちの無気力批判する声があがった法学者アッ=スラミーが聖戦個人課せられた義務であると主張して、これを呼びかけたのは、このときであった。この呼びかけ応えたのは当初ザンギー朝その後ムスリム英雄サラーフッディーンサラディン)がこれに応えた第一次世界大戦の際には、同盟国側立ったオスマン帝国が「ジハード宣言発しているが、しかし、ここではインドムスリムの対英協力アラブ人反乱食い止めることができなかった。とはいえ一方では、19世紀以降、いわばイスラーム世界の「辺境」にあたる西アフリカマグリブスーダンインド東南アジアの地で「ジハード」が呼びかけられ、植民地主義帝国主義対す抵抗繰り広げられたのも事実である。20世紀後半には、ユダヤ教の国イスラエル拡大と戦うパレスティナハマースソヴィエト連邦侵攻と戦うアフガニスタンムジャーヒディーン運動盛り上がるが、これらの根底には近代ムスリム抵抗思想(「防衛ジハード」の思想)と同様の性格見出すことができる。 このようにイスラーム的伝統のなかでジハード重要な役割果たしてきたのは事実であるが、近年では、イスラーム教改革推進するジハード参加することは、真のイスラーム教徒のすべてにとって神聖な義務だと主張する人びともいる。このような立場立って現代イスラーム社会その周辺見わたすと、そこには、腐敗した権威主義的政権支配する世界や、みずからの経済的な成功繁栄のみに関心集中し欧米社会文化価値観染まった一握りエリートだけが脚光を浴びる世界立ち現れてくる、少なくとも、そのようにとらえるムスリム少なくない。そして、欧米諸国が、民衆対し抑圧的な態度をとるイスラーム政権支え地域人材天然資源搾取しイスラーム世界から文化奪いムスリム自身選んだ政権の下で公正な社会生きる権利奪っているように映じるのであるイスラーム主義イスラーム復興主義)に立つ活動家多くは、ムスリムの力と繁栄をとりもどすには、「正しイスラーム教え」に回帰することが重要と考えており、また、国家社会イスラーム化強めるために政治改革社会改革必要だ考えている。このようなイスラーム回帰思想は、近代においてはワッハーブ運動アフガーニー改革運動嚆矢としており、のちのサウジアラビア建国汎アラブ主義台頭原動力となった。そして、一握りではあるが、そのなかの暴力的な方向性是認する一部過激派は、救世主的な世界観攻撃性組み合わせて国内外イスラーム教解放するためのジハード呼びかけ、「神の軍隊」の創設主張し軍事的な動員をおこなっている。上述のように、ジハードは、侵略戦争遂行してゆくために利用すべきものでは決してないが、それでも実際には、一部支配者政府個人そのようにジハード利用している。たとえば、1991年湾岸戦争の際のサッダーム・フセインアフガニスタンターリバーンまた、ウサマ・ビンラーディンおよびアルカーイダなどがそれに相当する。 なお、古典的なシャリーアでは、ムスリムであってもイスラーム教えから逸脱する信条を抱くようになった者は不信心者(カーフィル)と呼ばれ、「戦争の家」に住む異教徒上の悪であり、すみやかにジハードによって打倒されなくてはならない規定している。16世紀から17世紀にかけて、互いに近接するスンナ派オスマン帝国トルコ)とシーア派サファヴィー朝ペルシャ)が領土めぐって戦争するときは、お互いを「不信心者」と決め付けることによってその戦争を「ジハード」と位置付け、みずからの立場正当化しよう図り1980年から1988年までつづいたイラン・イラク戦争においてルーホッラー・ホメイニー擁するイラン・イスラム共和国が「世俗主義」「脱宗教主義」を標榜するバアス党政権イラクに対して激し敵意憎悪示したのは、このような思想背景とする。 「外へのジハード」とテロリズム 近年には、政治的動機による戦争テロリズム正当化する標語として「ジハード」の語が頻繁に用いられ、本来ジハード宣言を行う資格のない者がジハード唱える局面増えつつある。「脱宗教主義」から「イラク民族主義」へと大きく方向転換したイラクサッダーム・フセイン大統領は、1990年クウェート占領反対するアメリカ合衆国など西側諸国対抗するため「異教徒対すジハード」を呼号して1991年湾岸戦争へと突入した。この時点ではイスラームに「回帰」したかにみえるフセインであったが、しかし、湾岸戦争後国内でまず起こったのがイスラーム教シーア派人びとによる暴動だったのである。 「ジハード」を標榜する政治家テロリスト言葉が、ムスリム人々の心をある程度引きつけていることは事実である。これは、アメリカはじめとする西側諸国イスラエル好意的で、パレスティナムスリム追いやり、弾圧していることに対す同情や、アフガニスタンイラク対す空爆独裁政権強権的政府のみならずムスリム民衆までをも死に追いやっていることに対す悲憤がある。被侵略者・被抑圧としての怒り多くムスリム共有しているため「いまこそがイスラーム共同体防衛するためジハードを行うべきときである」という言葉多かれ少なかれ共感をいだくのである。 しかし、インドネシアタイフィリピンスーダンではイスラーム勢力拡大や非ムスリム弾圧、その他ムスリム社会一部権益擁護拡大のために利用できる場合に「ジハード」という言葉テロリズム武力闘争正当化利用している組織政府がある。こういった過激派は、前述和平奨めるクルアーン聖句を、イスラーム優越屈服する限りに於いて和平認めるというものだと解釈する傾向にある。そのため非ムスリムから「ムスリム都合次第殺戮ジハードとして正当化している」と批判される口実与えることにもつながっている。 さらに、エジプトジハード団のように、シャリーア以外の法を施行する為政者ムスリムであろうと「不信心者」であり、ジハードによって排除しなければならないとして、要人クラス暗殺テロリズムをおこなう過激な組織もある。 「外へのジハード」と天国 上述のとおり、ジハード戦死した者は、この世の終わり最後の審判なされた結果天国にいけるとされている。イスラームにおける「天国」はアラビア語で(جنّة‎ jannah) と呼ばれ、『クルアーン』ではその様子が具体的に綴られているが、それによれば緑なす木々覆われ果実たわわに実り清らかな川が数多く流れて快適な風がつねに吹きわたっている清浄なところであり、天国行き許されたものに対しては、現世の酒とは異なり、いくら飲んで酔わない美酒最上の食べものがあたえられるという。『クルアーン』にはさらに、男性天国複数処女フーリー)を侍らせることができると説く。これらは『クルアーンにおいては抽象的表現にとどまるが、ハディースではより具体的にフーリー72人おり、望むだけ性交をできる」「彼女たち何回性交におよんでも処女のままである」等と説くものも見られる。 この「処女」の表現は、比喩的なものにすぎないという意見多く、あるいはまた、実際は「処女ではなく「白い果実」という意味であるという説もあるが、過激派組織自爆テロ人員募集する際に、年少の者などに対しこのような天国描写意図的に用いている場合少なくないとされ、問題となっている。

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