非武装中立 非武装中立の概要

非武装中立

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/11 10:22 UTC 版)

概要

非武装中立には、戦時のみのものや、平時を含むものが考えられる。永世中立国とは異なり、平時を含めて自衛戦争のための常備軍も廃止し、特定の軍事同盟にも加盟しないものとされる場合が多い。

思想としては、平和主義ガンディーキング牧師などの非暴力主義、あるいは国際社会への信頼などに基づき、それを国家レベルや平時にも拡大したものとも言える。

非武装中立政策は、世界的にはヨーロッパの小国などで採用された例があるが、一時的または限定的に留まっている。日本では第二次世界大戦の反省と、戦後の日本国憲法第9条東西冷戦の関連もあり、日本社会党などにより主張された。

なお、非武装中立とは国家レベルの政策であり、必ずしも国家レベル以外の軍備や自衛戦争を全て否定するものとは限らない。国際連合憲章では、国際の平和と安全を維持または回復するために、常設および非常設の国連軍を認めており、仮に侵攻を受けた場合に非暴力の抵抗を続けながら国連軍の救援を待つ事は考えられる。ただし、現在でも常設の国連軍は組織された事が無い(このため自衛隊指揮権を国連に移管し、常設の国連軍とする意見も存在する。その場合は任務が日本防衛のみとなるとは限らない)。また、安保理常任理事国拒否権を発動すれば国連軍は行動できないため、仮に常任理事国自身や常任理事国が支持する国から侵攻を受けた場合には、事実上期待できない。

また、軍備の有無にかかわらず国家の自衛権自体は国際法上存在しているため、侵攻を受けた以後に民兵義勇軍を組織することも考えられる。ただし、急造の武装組織の近代戦での有効性は疑問であり、日本国憲法においても何ら規定されておらず、捕虜などの戦時国際法上の保護も課題となる。

世界

非武装中立論は、ヨーロッパでも社会防衛論として、軍事による国土防衛を放棄し、自国が外国軍隊によって占領されたとしても、他の手段(デモ座り込みボイコット、非協力等)によって他国からの領土支配を拒絶するとする政策論が存在する。

バチカンは、ラテラノ条約によって国家としてのバチカン市国が成立し、対外的に永世中立を宣言した後は非武装中立を行っていると言える。スイス傭兵を抱えてはいるがあくまで儀礼的なものであり、唯一国境を接するイタリアとの関係も良好である。しかしローマ教皇のような特別な権威を持つという性質を、他の国が模倣することは極めて困難である。太平洋にはツバルバヌアツといった非武装で、非同盟政策を掲げる国はあるが、いかなる紛争に対してもの中立を宣言しているわけではない。

明確に非武装中立を宣言した国にはコスタリカが挙げられる。1983年に永世非武装中立をルイス・アルベルト・モンへ英語版大統領が宣言している。ただしコスタリカは常備軍の設置を禁止しているだけで、非常事態には徴兵制を敷き軍隊を組織することができる。コスタリカ共和国憲法第12条には「大陸間協定により若しくは国防のためにのみ、軍隊を組織することができる。」としている。また国家警備隊及び地方警備隊が、重火器等を保持し、隣国ニカラグアの軍事費の三倍(2005年 外務省のデータ)を得ていることや、米軍グリーンベレーによる軍事訓練を受けていたこともある[1]など、国防軍的要素が備わった武装組織となっており、純粋な非武装とは呼びがたい。また中立という面では、安全保障アメリカ合衆国に依存しており、さらに米州機構のメンバーでもあり、1965年に起きたドミニカ内戦の際には米州平和維持軍の一員としてドミニカ共和国の立憲派政権を転覆させるために、ラテンアメリカ反共国家の軍隊と共に武装警察を派兵したこともあり、イラク戦争においても有志連合の支援国となった[2]。またコスタリカの警備隊は1999年に結ばれたアメリカとの麻薬取締協定に基づき、米軍とともに大西洋・太平洋で共同パトロールを行ってきた。その拠点としてココ島に限定して米軍に駐在を認めてきたが[3]、2010年7月にコスタリカ議会は、米軍のコスタリカ国内における自由な移動の許可と、46の軍艦、200の戦闘機ヘリコプター、7000人の海兵隊員の派兵を受け入れることを賛成可決で決定した[4]。このような状況からも、国際的には中立国として認められない。

また、非武装中立のみによって戦争の被害を完全に免れえる訳ではない。ルクセンブルク1867年の建国時より、非武装政策の永世中立国であり、現在でも憲法では中立国であると規定している[5]。しかし第一次世界大戦第二次世界大戦ではドイツフランスへのより安全な侵攻ルートを確保するため、シュリーフェン・プラン及びマンシュタイン・プランに基づいてルクセンブルクとベルギーの中立を一方的に侵犯して両国を武力占領した[5]。このためルクセンブルクは、第二次世界大戦後の1949年NATOに加盟し、徴兵制度を採用(1968年に志願制に移行)、永世中立および非武装政策を事実上放棄した[5]。バチカンやサンマリノも第二次世界大戦中には非武装中立の立場を取ったが、空襲や占領による被害を受けている。また戦争に至らない事例でもソロモン諸島は内乱を沈静化できず、太平洋諸島フォーラム諸国に多国籍軍の派兵を要請する事態が起きている[6]

非武装中立を掲げる政党が政権与党となった例としてはキプロス共和国労働人民進歩党(2001年~2010年)があるが、具体的な軍備廃止や同盟関係の離脱には及んでおらず、国軍であるキプロス国家防衛隊英語版の解体や国内に駐屯する国際連合キプロス平和維持軍の撤退などは行われていない。


  1. ^ “VOICES FROM COSTA RICA, Interviews by Andrew Reding”, World Policy Journal , Vol. 3, No. 2, World Policy Institute, Spring 1986(『世界政策ジャーナル』、第3巻第2号、1986 年)
  2. ^ 山岡加奈子「コスタリカ総合研究序説」、日本貿易振興機構アジア経済研究所、2010年。 、24p
  3. ^ 「コスタリカの非武装の内容について」アジア・アフリカ研究所所員 新藤通弘
  4. ^ WeLoveCostaRica.com 「「46 US Warships Plus 7,000 US Marines On Route To Costa Rica?」」 Scott Oliver - July 2010
  5. ^ a b c 若松新「欧州における独立国としての小国の地位--ルクセンブルクの言語,軍隊,通貨をめぐって
  6. ^ 小柏葉子 「ソロモン諸島における民族紛争解決過程 -調停活動 とその意味 ―
  7. ^ Ⅲ政策の基本課題 (6)世界の人々と共生する平和な日本”. 2018年1月5日閲覧。
  8. ^ 北海道新聞』(1979年3月9日付)への寄稿論文。なおこれについて谷澤永一は「森嶋はそんな(非武装中立を真面目に信じるような)アホではない」「社会党や共産党がソ連に日本に攻めてきてもらって日本が降伏して傀儡政権の首脳になれればいいと思っているのを衝いたブラックユーモア」と述べている(「正体見たり社会主義」P47~49、PHP文庫)
  9. ^ 石橋政嗣『非武装中立論』(日本社会党中央本部機関紙局, 1980年10月)、(復刊版:明石書店, 2006年9月, ISBN 4750323985
  10. ^ 日本の防衛のあり方に関する意識(自衛隊・防衛問題に関する世論調査)』(プレスリリース)内閣府、2009年1月https://www8.cao.go.jp/survey/h20/h20-bouei/2-6.html2010年5月27日閲覧 
  11. ^ a b c d 岐路に立つ共産党 「自衛隊活用論」の本気度 松竹伸幸”. 毎日新聞「政治プレミア」. 2023年2月7日閲覧。
  12. ^ 日本戦略研究フォーラム(JFSS)”. www.jfss.gr.jp. 2023年2月7日閲覧。
  13. ^ a b 「自衛隊は違憲」 社民・福島党首が党見解変更の意向 - asahi.com : 2004参院選 : ニュース”. www.asahi.com. 2023年2月7日閲覧。
  14. ^ 稲垣武『「悪魔祓い」の戦後史 進歩的文化人の言論と責任』文藝春秋、1994年8月、25-26頁。ISBN 4163491708 
  15. ^ 「自衛隊は憲法の認めるものだ」 村山首相の大転換”. 日本経済新聞 (2015年10月18日). 2023年2月7日閲覧。
  16. ^ asahi.com(朝日新聞社):福島氏「自衛隊合憲」認める答弁 ただし「閣僚として」 - 2010鳩山政権”. 2023年6月3日閲覧。
  17. ^ 編集長の冒険 » 矛盾に満ちた共産党の安全保障政策に共感する理由・上”. 編集長の冒険. かもがわ出版. 2023年2月6日閲覧。
  18. ^ a b c d 志位委員長「自衛隊活用論」の大ウソ 元幹部は「党綱領を読んでいないんじゃないか」”. デイリー新潮. 新潮社. 2023年2月7日閲覧。
  19. ^ a b c 共産・志位委員長は「自分の口で言えばいいと思う」 「党首公選」への反応めぐりベテラン党員が抱いた違和感(J-CASTニュース)”. Yahoo!ニュース. 2023年2月6日閲覧。


「非武装中立」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「非武装中立」の関連用語

非武装中立のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



非武装中立のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの非武装中立 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS