遼寧 (空母)
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遼寧 | |
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基本情報 | |
建造所 |
黒海造船工場 大連造船所(改装) |
運用者 | 中国人民解放軍海軍 |
艦種 | 航空母艦 |
級名 | 001型・アドミラル・クズネツォフ級 |
前級 | 1143.6型「ヴァリャーグ」(前身) |
次級 | 002型「山東」 |
所属 | 北海艦隊 |
艦歴 | |
発注 | 1998年(ウクライナより購入) |
起工 |
1985年12月6日(ヴァリャーグ) 2005年4月26日(改装) |
進水 | 1988年11月25日(ヴァリャーグ) |
就役 | 2012年9月25日 |
要目 | |
基準排水量 | 46,637トン[1] |
満載排水量 | 59,439トン[1] |
全長 | 304.5 m[1] |
幅 | 37 m[1] |
最大幅 | 70 m |
ボイラー | KVG-2×8缶 |
主機 | TV12-4型蒸気タービン×4基 |
推進 | スクリュープロペラ×4軸 |
出力 | 200,000馬力[1] |
速力 | 30ノット[1] |
乗員 | 1,334名+航空要員626名+司令部要員40名[1] |
兵装 |
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搭載機 |
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レーダー |
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電子戦・ 対抗手段 | チャフ24連装投射機×2基 |
当初は「ヴァリャーグ」の漢語訳の「瓦良格」と紹介していたが、2012年9月25日の就役と同時に「遼寧」と発表された。正式な型式は001型航空母艦だが、日本の防衛省および統合幕僚監部はクズネツォフ級空母として扱っている[5]。
再建造に至る経緯
ソ連における建造と中断
ソビエト連邦では、1143.5型重航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」を発展させて1143.6型を開発し、1985年8月に艦籍編入、同年12月4日にウクライナ・ソビエト社会主義共和国のムィコラーイウにある黒海造船工場で起工して、1988年11月25日に進水させた[6]。艦籍編入時の艦名は「リガ」だったが、太平洋艦隊への配備が予定されていたことから、1990年6月、海軍総司令官の指示によって、日露戦争時の著名な巡洋艦の艦名を継いで「ヴァリャーグ」と改名された[6]。
同艦は1993年に竣工する予定で工事が進められていたが、ソビエト連邦の崩壊に伴って黒海造船工場がウクライナの国営造船所となったことから、1991年12月よりロシア海軍は建造費をストップし、1992年2月、進捗率75パーセントの状態で同艦の建造は中断された[6][注 1]。その後、ロシアとウクライナの間での交渉を経て、1995年6月に調印された協定によって、同艦はウクライナ政府の所有物となった[6]。しかし経済危機に悩むウクライナには同艦を完成させて運用する余裕はなく、また軍事的にみても意義は乏しかった[6]。工事途中で放置されている同艦を維持するだけでも年間100万ドルもの経費が必要となり、また造船所が他の艦船を建造することを邪魔してもいたことから、1995年末には、早々に海外売却の方針が決定された[6]。
中国による購入と回航
中国は積極的に「ヴァリャーグ」の購入に乗り出し、あからさまに軍が関与した視察員を送り込んで設計・建造に関する資料・情報を集めるとともに、建造に関わった造船所の技師や労働者に、中国の造船所への転職を提案した[6]。1997年6月、ウクライナ政府は中国側との予備商談に着手したが、中国側では軍や情報機関が暗躍し、買手を幾度となく変更してウクライナ側を翻弄するとともに、露骨な賄賂攻勢を仕掛けた[6]。
1998年4月、マカオの「中国系民間会社」である創律集団旅遊娯楽公司が[10]、2,600万ドルで同艦を落札した[6][11]。同艦は船内にカジノ、ディスコ、デパート、博物館、劇場などを持つ洋上5つ星ホテルになることになっていたが[6][注 2]、同社の社長で香港の実業家の徐増平は中国人民解放軍海軍の退役軍人だった。また創律集団旅遊娯楽公司は事務所も電話もないペーパーカンパニーであり、カジノの営業資格もなかった。そもそもマカオの港は水深10メートル程しかなく、6万トン級の大型艦は入港できない[12]。結局、後に同艦が中国に到着するとともに同社は姿を消し、これとともに、契約に盛り込まれていた「軍艦として再生することを禁ずる」という条項も霧散した[6]。
しかし購入契約が調印されたのちにも、今度は中国への回航が問題になった[6]。黒海から地中海への出口を扼するトルコ政府は、ボスポラス海峡、ダーダネルス海峡を動力装置の無い大型艦が曳航されて通過するのは危険であること、未完成とはいえ航空母艦の海峡通過はモントルー条約に抵触することから、海峡通過に難色を示した[6]。既に中国が同艦を軍艦として再生する可能性が極めて高いと観測していた西側諸国は、トルコ政府が通行許可を出さないよう様々に働きかけ、トルコと中国の通行許可を巡る交渉は16か月にも及んだ[6]。購入後の同艦を黒海造船工場に停泊させ続けるために中国が支払った停泊料は莫大なものになっていたことから、2000年6月、同艦はオランダ、ノルウェー、ロシアのタグボート3隻に付き添われて出港し、506日間に及ぶトルコと中国の交渉期間中はトルコ領海付近を漂泊していた[6]。
2001年初頭、唐家璇外交部長はトルコを訪問して同艦の海峡通過の際の安全を確約し、万一の事態を想定した数千万ドルもの保険料を支払うとともに、許可の見返りとしてトルコを訪れる中国人観光客を増加させることを約束して、やっと許可を得た[6]。これを受けて、2001年11月、同艦はやっと海峡を通過し、地中海に入った[6]。その後も、暴風のため曳航索が破断してエーゲ海の島々の間を漂流し、座礁直前にロシアのタグボート「ニコライ・チケル」が曳索を渡すことに成功したものの、これに続いてノルウェーのタグボートが曳索を渡す際に乗員1名が死亡するという事故が発生したほか、地中海を航行中にはフランス海軍のヘリコプターが突如として飛行甲板に着艦し、甲板に貼られていた耐熱板を剥がして飛び去るという騒ぎもあった[6]。回航を経て、2002年3月、同艦はマカオではなく大連港に入港し[6]、西区4号埠頭に係留された[9]。
中国における再建造
大連に回航されて3年間、同艦は大連船舶重工集団の岸壁に係留されるのみで大きな動きはなかったが、2005年4月になると大連造船所1廠に入渠し、艦体の清掃処理ののち、投影法でその体形と線形を改めて計測した[9]。また飛行甲板への滑り止め砂や艦体への防腐塗料の吹き付け、更にスクリュープロペラやプロペラシャフト、舵装置やフィンスタビライザーの修理、更にソナーの換装も行われた[9]。8月にドックから出渠した際には、水線以上の乾舷部は中国海軍の標準「浅藍灰色」に塗装されていたことから、まもなく海上公試に進むという観測もあったが、そのような動きはなく、再び長い待機期間を過ごすこととなった[9]。この時間は、空母保有の是非を問う議論および技術的問題解決の目処をつけるために費やされたものと考えられている[10]。
2008年末、中国海軍は本艦を練習空母として就役させる計画であることを表明した[10]。艦上戦闘機としてはSu-33を元に開発したJ-15が予定されており、20機程度を搭載する予定であった[13]。2008年末には岸壁にて外側からの工事が開始され、飛行甲板に大きな開口部が設けられて、SSMの撤去などが着手された[9]。2009年4月には大連造船所3廠に入渠し、5月にはソ連海軍時代のエンブレムと艦名を削除し、8月からはアイランドの工事が本格化した[9]。
2011年8月3日には数百人の兵士らが参加する完成式典が行われ、中国共産党中央軍事委員会高官も視察した[14]。また、渤海湾周辺で試験航行を行うために同月10日朝には出航したと報じられ[15]、5日間にわたって渤海湾で海上公試が行なわれた。この公試では艦載機はまだ搭載されていなかったが、11月29日からの公試では、近くの飛行場を離陸したJ-15との合同訓練を行っていたことが報道されており[16]、2012年の就航を目指して準備が進められていた。
10回の公試を終えた後[17]、2012年9月25日に大連港で中国人民解放軍海軍に引き渡す式典が行われ、「遼寧」と命名したと発表した[18][19][注 3]。
設計
本艦の前身となった「ヴァリャーグ」は1143.6型重航空巡洋艦(TAvKR)として起工されており、1143.5型「アドミラル・クズネツォフ」の発展型にあたる[6]。設計はおおむね踏襲されており、全長や基準排水量は変わらないが、幅がわずかに広くなったほか、艦尾の形状が変更されて格納庫面積が増大し、満載排水量も増加している[6]。一方、魚雷防御用装甲は「クズネツォフ」の多層式から単層式に簡略化されていた[6]。なお「ヴァリャーグ」は高緯度の低温海域での行動を前提に設計されたこともあって、艦上機全機を艦内に格納することを前提としていたが、この結果として艦橋構造物(アイランド)にも多くの区画が配置されて65メートル長と大型化し、艦上での航空機の取り回しが阻害される面があり、中国海軍は中・低緯度での行動を想定していたことから艦上機を露天係止で運用することも可能となったことから、以後の中国空母ではアイランドは小型化されていくことになった[21]。
「ヴァリャーグ」の機関は「アドミラル・クズネツォフ」と同構成で、KVG-2型ボイラー8基によってTV12-4型蒸気タービン4基を駆動し、減速機を介してスクリュープロペラ4軸を駆動するギアード・タービン方式であった[6][9]。その後、中国への売却の際に、レジャー施設として不要な機器を撤去することになり、電気系統やパイプなども切断されて使用不能になったものの、主機そのものは撤去されなかった[6]。ただし中国の意図に気付いたアメリカ合衆国の圧力により、ウクライナ側は、可能な限りの部品を撤去して、修復を困難にした[10]。
この結果、「遼寧」としての再建造にあたって、この動力システムの修復が最大の問題の一つとなった[10]。動力システム改造責任者は、この動力システムの修復が本艦の再就役にあたって最大の障害であったとし、修復できた部分は修復したが、できなかった部分は独力で研究開発したと述べた[10][注 4]。また本艦の初代機関長であった楼富強は、当初は蒸気を発生するボイラーの圧力があまりに高く危険であったため、出航速力に必要な出力を得られなかったことを明らかにしている[10]。
2013年8月の報道では、遼寧の機関は、原型よりも安全性を向上させ、ボイラーの始動に必要な時間を短縮するなどしてボイラー圧の低下を抑制した事、元々の設計ではタービンを回転させた後の蒸気を冷却して水に戻す復水器の冷却水パイプやバルブに水漏れ箇所が生じた場合、蒸気冷却用の海水が養缶水に混ざってボイラーに運ばれかねない問題があったが、設計変更によりリスクを低減する改良が施されている事が伝えられている[22]。
中華民国国防部による2016年12月26日発表の空母遼寧の位置情報[23][24]をもとに、中国語繁体字ウェブサイトの毎日頭條は、空母遼寧が5時間にわたって30ノットを維持して航行したと報道しており[25]、この時に潜水艦と遼寧の遠隔監視を行っていた日米台のP-3Cも、ほぼ30ノットで艦隊行動する遼寧を確認している[26]。戦略国際問題研究所によると速力は29ノットとしており、日本の平成29年(2017年)版『防衛白書』では、遼寧の速力を30ノット(時速約56km)と記述している[4]。
艦内電源は「ヴァリャーグ」と同じで、出力1,500キロワットのタービン発電機9基と、同出力のディーゼル発電機6基で、合計出力2万2,500kWを供給する[27]。
なお2017年4月の002型「山東」の進水式のち、遼寧も大連船舶重工集団に戻り、しばらく2隻の空母が艤装岸壁に並んだ状態で整備を受けていた。その後、2018年8月からの2回目の定期メンテナンスにあわせて、近代化改装が実施された[28]。改修は運用を通じて明らかになった課題を解決するために行われたもので、艦載機システム、動力、電気系統、居住システムなど総合的な改修となっており、遼寧は今後10年~20年問題なく就役できる状態になったとしている[29]。
注釈
- ^ 66.7%[7]か67.3%[8][9]という説もある。
- ^ この時期、中国は「ヴァリャーグ」のほか、キエフ級航空母艦「キエフ」「ミンスク」も購入しており、これらはそれぞれ天津と深圳で博物館船として一般公開された。
- ^ 中国への売却後、日本など外国メディアでは、本艦は台湾平定の功績で知られる清朝初期の将軍に由来する「施琅」と呼ばれることもあったが、2011年4月27日には国務院台湾事務弁公室がその名称を否定している[20]。
- ^ 大連造船所は、中国の造船所の中では蒸気タービンやボイラーに関する経験が最も豊富な会社である。また、中国は、元となったヴァリャーグと同系列の蒸気タービンを装備するソブレメンヌイ級駆逐艦を購入しており、これを参考にしたと思われる
出典
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