計器着陸装置
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/13 15:51 UTC 版)
ILSのカテゴリー(精度)
ICAOでは、ILSをその設置・運用精度により以下の5つのカテゴリーに分類している。
カテゴリー | 決心高 (DH) | 滑走路視距離 (RVR) |
---|---|---|
カテゴリーI (CAT I) | 200ft以上 | 550m (1800ft) 以上または視程800m以上 |
カテゴリーII (CAT II) | 100ft以上200ft未満 | 300m (1200ft) 以上 |
カテゴリーIIIA (CAT IIIA) | 100ft未満または設定なし | 175m (700ft) 以上 |
カテゴリーIIIB (CAT IIIB) | 50ft未満または設定なし | 50m (150ft) 以上、175m (700ft) 未満 |
カテゴリーIIIC (CAT IIIC) | - | - |
カテゴリーの数字が大きくなるほど着陸決心高(Decision Height ; DH、着陸するかゴーアラウンドするかを決定する滑走路末端からの高さ)は低くなっており、悪天候・低視程での着陸が可能となる。
ただし、これにはパイロットおよび航空機がカテゴリーを満たしている必要がある。パイロットを例にすると、通常は高精度のカテゴリーほど本装置を頼りに悪条件下であってもより低い高度までの降下が可能だが、万が一装置に異常が発生した場合にそれだけ低視程、低高度といった状況において緊急対応を必要とされる可能性が考えられるためである。このため本装置が単純にパイロットの技量を補ったり、その代わりになったりするものではないことに注意されたい。航空機も同様で、高精度のカテゴリーでは構成する機器の冗長化に関する規定がより厳しくなっている。
また、CAT II以上の場合には航空機およびパイロットだけでなく、航空会社などが国土交通大臣による「特別な方式による航行」の許可を受けなければならず、さらに空港でも低視程下での地上体制、LVP (Low Visibility Procedure) 体制が発動されなければならない。LVP体制のことを日本ではかつてSSP (Special Safeguards and Procedure) 体制と呼んでいた。これには本装置の電波を乱すことの無いよう滑走路やアンテナ付近における車両の運行を停止したり、万が一に備えた緊急車両(消防車、救急車など)の準備を行なったりすることが含まれる。
加えて飛行場灯火(滑走路灯等)も必要条件であり、CAT II以上ではより高規格の進入灯等が求められる。
なお、決心高度 (Decision Altitude ; DA)は平均海面上からの高度で表されるが、これに対し滑走路端からの高さで表されるものを決心高 (Decision Height ; DH) と呼ぶ。DHに滑走路端標高を加えればDAになる。CAT I では気圧高度計によるDAを使用するのに対し、CAT II以上では電波高度計によるDHを用いる。電波高度計を用いる理由は、低高度においてより精密な高さが要求されるからである(気圧高度計では温度誤差等があるため)。さらに実際の運航では地形の凹凸も加味し、単純な滑走路端からの高さではなく、その地点の地表までの鉛直距離を1フィート単位で表した数値がDHになる。
またCAT IIIでDHを設定しない (= 0ft) 場合は、警戒高 (Alert Height ; AH) が設定(多くの国では100ft)される。AHは機材または地上設備の異常がないことを確認するための最低の高さである。DHとの違いは、DHではその高さに達した時点で所定の灯火または地上施設が見えることを要求されるが、AHを設定する場合は、何も見えなくとも機上地上の機器類に異常が無ければ進入を継続できることにある。よってCAT IIIa、IIIbで定められたRVRがあれば(滑走路面の積雪状況や横風の強さといった制限はあるが)そのまま自動着陸することが可能である。
最も精度が高いCAT IIIcのILSもまた前述の通りDHは設定されておらず、航空機およびパイロットの条件が整えば全く視界がなくても自動操縦装置を使用して着陸をおこなえる。ただし、2007年現在CAT IIIcの運用例はない。これはCAT IIIc の精度が要求される視程無し(ゼロ)の条件下で着陸したとしても、その後の地上走行が極めて困難であり、また支援車両や緊急車両(トーイングカー、消防車、救急車など)も同じく視界不良のため対応に向かえないからである。運用開始に当たってはそれぞれに空港内を無視界で走行できる装備が必要となるが、地上機材の導入は空港側の負担となる。
- ^ a b “航空実用辞典”. 日本航空 2011年11月13日閲覧。
- ^ Horizontal Situation Indicator、水平姿勢指示計。グライドパスはやや上方、ローカライザはやや右寄りを表している表示。つまり指示よりも低く左寄りを飛行している。
- ^ “ILSの概要”. 国土交通省. 20190922閲覧。
- ^ 計器着陸装置 (ILS) のカテゴリー (CAT) IIIB化について (PDF) (Centrair Group News)
- ^ 2012年7月よりCAT-3b供用開始
- ^ 2009年6月4日よりカテゴリーIIIbの運用を開始したが、2015年4月のアシアナ機の事故による地上機器破損により暫定的にCAT-Iでの運用となり、2015年9月15日に「CAT-IIIa」が、続けて2015年9月19日から「CAT-IIIb」の運用が再開された。
- ^ 2011年11月17日 - 2012年9月19日はCAT IIIa、2012年9月20日よりCAT IIIb運用開始
- ^ 2010年2月25日にはCAT IIIのILSが必要になる濃さの霧が発生した。2015年8月20日よりCAT IIIa、2016年1月7日よりCAT IIIbへ格上げ。
- ^ D滑走路への進入経路の変更について (PDF)
- ^ 羽田空港 LDA装置 (PDF)
- 1 計器着陸装置とは
- 2 計器着陸装置の概要
- 3 原理
- 4 ILSのカテゴリー(精度)
- 5 日本での運用状況
- 6 オフセットローカライザ
- 7 事故
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