匁 匁の概要

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/11 15:50 UTC 版)

もんめ
匁、もんめ(真珠の質量の計量における計量単位の名称)
momme

五円硬貨。重さ1匁
記号 mom (法定計量単位としての記号)
度量衡 尺貫法(真珠の質量の計量においては法定計量単位
質量
SI 正確に3.75 g
定義 11000度量衡法の表現。110に等しい)
由来 銭貨の質量
語源 一文銭の目方=文目
テンプレートを表示
せん

mace
度量衡 尺貫法
質量
SI 5 g(市制
3.77994 g(香港 他)
3.7301 g(旧制)
定義 110
由来 開元通宝の質量
語源 銭(= 銅貨
テンプレートを表示
各種表記
繁体字
簡体字
拼音 qián
発音: チエン
広東語発音: chìhn
英文 mace, tsin, chee
テンプレートを表示
江戸時代両替商で用いられた後藤分銅
貳拾両(200匁:749.07 g), 拾両(100匁:374.62 g)
  1. 日本尺貫法における質量単位である(明治時代以降)[3]。明治以降、1 匁 は正確に 3.75 g である。
  2. 江戸時代銀目すなわちの通貨単位である(江戸時代以前、主に江戸時代)[4][5]。江戸時代以前も匁は両の分量単位としての量目の単位に違いなかったが、当時の文書に現れる「匁」は、多くの場合貨幣単位としての匁であった。

「匁」は日本固有の、かつ日本独特の民間の質量単位の呼称であり[3][6]、「匁」の文字は一般的には日本独自の国字とされるが[2]異論(後述)もある。中国では匁に相当する単位は「銭」である[3][7]

概要

江戸時代ではの1/10に相当する分量単位であったが、1891年(明治24年)の度量衡法によりの1/1000の分量単位と規定され、メートル法に準じて正確に3.75 gとされた。現行の計量法でもこの換算値が維持されている[8]が、単位名称「もんめ」は「真珠の質量の計量」にのみ限定して使用することができ、それ以外の商取引における使用は禁止されている。

日本でも明治時代以前は(戔、せん)と呼ばれ、中国語圏では現在も中国語: 錢/钱 拼音: qián チエン)と呼ぶ。また、いくつかの国ではまた別の呼び名をする。それらの単位についてもあわせて解説する。

10匁・10銭は(りょう)に、160匁・160銭(例外あり)は(きん)に、1000匁は(かん)に等しい。

名称

銭と匁

中国と韓国での単位名は「銭」であり、日本でも近代以前は銭と呼んでいたが、古くからの用例もあり大内家壁書の文明16年(1484年)の条項に「匁」の名が現れた[9]。大内家壁書には、「金銀両目御定法之事」の項目に「こがねしろがねの両目の事は、京都の大法として、いづれも、一両四文半銭にて、弐両九文目たる処に、こがねをば、一両五匁にうりかう事、そのいはれなし。」と記されている[10]

五匁銀。文字銀と同品位で量目は5匁(約18.7 g)あった。

上記は文明16年(1484年)に室町幕府により金一両が公定された当時の文書であり、この金一両4.5匁は京目と称した[11]鎌倉時代後期頃より金一両は4.5匁、銀一両は4.3匁とする慣行が生まれ[12]、銀1両=4.3匁とする秤量銀貨の単位が用いられるようになったが[4]江戸時代まで分銅の表記は「戔」であった。江戸時代の「匁」の用法は専ら銀目によるものが多い[13][14]。1765年に鋳造された五匁銀に「文字銀五匁」と、通貨単位として初めて「匁」の文字が貨幣に入った[15][16][注釈 1]

1871年の新貨条例では日本量目の比較表では「戔」とされており、貨幣略図并品位量目表に「匁」の名が現れる[17]。1891年の度量衡法で法的にメートル法を基準とした「匁」が登場した[18]。日本においても正規の名称は明治初期まで「銭」であった[3]

読み「もんめ」は、一銭の質量であることから「文目」(もんめ)と呼んだことに由来する。「目」は、「の目」の意味から転じた、質量を意味する接尾辞で、「目方」と同じ意味である。「匁」の文字は「文」と「メ」を組み合わせたものであるとする説があり[2]、また「銭」の異字である「泉」の草書体に由来するともされる[3][19]

漢字「匁」は本来「銭」の異体字として中国で使用されていた字で日本の国字ではないとする見解もあるが[20]、字書類に載っていない上に日本で「もんめ」の漢字として本来の銭を圧倒して使われたために、しばしば国字の例としてあげられる。

もんめ(日本の計量法上の名称)

匁は真珠の質量の単位として商取引上、国際的に使われているので、日本の計量法において、「真珠の質量の計量」にのみ使用することが認められている法定計量単位である[21]。これは真珠が日本の特産品であったことによるものである。この場合の単位名は平仮名表記の「もんめ」であり、漢字表記の「匁」ではない。その単位記号は"mom"と定められている[22]。「もんめ」は英語などでは"momme"と綴られている。なお、国際単位系においては、「もんめ」の単位は認められていない。

英語名

英語では mace(メイス)と呼び、これはマレー語mas からオランダ語maes を経由した借用語である[23]。マレー語の mas はさらに、サンスクリットmāṣa(マーシャ)に由来し、これはインドベンガル地方の質量の単位マーシャ māsha(≒0.972 g)の語源でもある[要出典]

香港英語では広東語由来のtsin[24]シンガポール英語では閩南語由来のchee[25]とも言う。

桁の表現

江戸時代の銀目において20匁以上のとき、10匁単位(10匁の整数倍)の場合には、匁の代わりに「目」(め)と呼ぶことがある[9]。例えば30匁は三十目、300匁は三百目とも呼ぶ[4]。ただし、10匁単位でない場合はこの表現はせず、たとえば、27匁を27目のようには言わない。また、この「x十目」中の「十目」あるいは「百目」は10匁・100匁に等しい独立の単位ではなくあくまで10匁・100匁の別の表現なので、たとえば232匁を二百目三十二匁などとは言わない。

110銭は(ふん)、1100銭は(りん)、11000銭は(もう)となる(110匁等についても同様)[6]。この場合、の用法と同じであり、基本単位「両」を十割として0.1割を1分、0.01割を1厘とするため、見かけ上は両の1100が1分、11000が1厘となる。匁は1割に相当し、両の補助単位である。「分」を「ぶ」と読まず「ふん」と読むのは、金貨の通貨単位である一分(ぶ)との混同を避けるためである[注釈 2]。これは質量の単位であるがゆえの例外であり、これに対したとえば110の「分」は「ぶ」と読む[注釈 3]


注釈

  1. ^ 江戸時代初期鋳造と考えられている加賀花降銀は量目100匁だが、「百目」と表記されている。『日本貨幣収集事典』p81.
  2. ^ 銀貨の「分」との混同を避けるため、金一分を「一歩」と書いて区別する場合もある(草間(1815).
  3. ^ 長さの基本単位は「尺」でありこれを十割として同様に0.1割が1分である。寸は尺の補助単位で1割に相当する
  4. ^ 天秤による質量の実測値。両替屋の天秤は主に丁銀・小玉銀の質量を計る目的のものである。
  5. ^ 『新稿 両替年代記関鍵 巻二考証篇』は「二百"九十"匁四分九厘」と記しているなど誤植による異同がある。
  6. ^ 明治4年5月10日(1871年6月27日)太政官布告第267では、「銭」の異体字である「戔」を用いている。

出典

  1. ^ 『広辞苑』「匁」p2209.
  2. ^ a b c 『廣漢和辞典 上巻』「勹部-匁(1410)」,p416.
  3. ^ a b c d e 『国史大辞典』「匁(重量単位)」, p920.
  4. ^ a b c d e f 『国史大辞典』「匁(銀貨の単位)」, p920.
  5. ^ a b c 『国史大辞典』2巻「銀目」, p697.
  6. ^ a b 小泉(1974), p345.
  7. ^ 小泉(1974), p220-222, 345.
  8. ^ 計量単位令別表第6 項番4、「真珠の質量の計量、もんめ、キログラムの〇・〇〇三七五倍」
  9. ^ a b c 花野韶「貨幣から見た匁の変遷」2008年
  10. ^ 大内家壁書 13/32コマ”. 国文学研究資料館. 2018年2月12日閲覧。
  11. ^ a b 三上(1996), p29-30.
  12. ^ 小葉田(1958), p78.
  13. ^ 両替年代記(1933), p200-202.
  14. ^ 草間(1815).
  15. ^ 三上(1996), p213-215.
  16. ^ a b c 桜井信哉(1996)、「江戸時代における貨幣単位と重量単位 : 大黒作右衛門の「匁」の名目化=貨幣単位化意図を事例に」『社会経済史学』 1996年 62巻 4号 p.486-511,568, doi:10.20624/sehs.62.4_486
  17. ^ a b 明治大正財政史(1939), p11-12, 138-146.
  18. ^ 小泉(1974), p358-359.
  19. ^ 小泉(1974), p220, p345.
  20. ^ 笹原(2007), p91.
  21. ^ 計量単位令別表第6 項番4、「真珠の質量の計量、もんめ」
  22. ^ 計量単位規則別表第4 真珠の質量の計量、もんめ、mom
  23. ^ mace NOUN3 OED Oxford English Dictionary, mace is of multiple origins. Either (i) a borrowing from Dutch. Or (ii) a borrowing from Malay., Etymons: Dutch maes; Malay mas.
  24. ^ Weights and Measures Ordinance”. The Law of Hong Kong. 2012年1月28日閲覧。
  25. ^ "Weights and Measures" in The Miners' Pocket-book.
  26. ^ 小泉(1974), p220-222.
  27. ^ 小泉(1974), p255-256.
  28. ^ 田谷(1963), p124.
  29. ^ 三上(1996), p123-124.
  30. ^ 小葉田(1958), p119.
  31. ^ 田谷(1963), p125.
  32. ^ 小葉田(1958), p169-173.
  33. ^ 草間(1815), p822.
  34. ^ 三上(1996), p30.
  35. ^ 『新収 日本地震史料 第三巻 別巻』, p316.
  36. ^ 鹿野嘉昭「銭匁勘定と銭遣い : 江戸期幣制の特色を再検討する」『經濟學論叢』第61巻第1号、同志社大學經濟學會、2009年7月、19-60頁、CRID 1390572174867023872doi:10.14988/pa.2017.0000012474ISSN 0387-3021NAID 110008613809 
  37. ^ 東京大学経済学部, 経済学研究科所蔵の古貨幣コレクション
  38. ^ a b 石原(2003), p170-187.
  39. ^ 田谷(1963), p464-465.
  40. ^ 久光(1976), p159.
  41. ^ 両替年代記(1933), p260-261.
  42. ^ 明治財政史(1905), p317-319.
  43. ^ 瀧澤・西脇(1999), p154-155.
  44. ^ 鹿野嘉昭「いわゆる銀目廃止について (岩橋勝教授記念号)」『松山大学論集』第24巻第4-2号、松山大学総合研究所、2012年10月、221-246頁、CRID 1050001338457913088ISSN 0916-3298NAID 110009632143 
  45. ^ Iwata1979.
  46. ^ 小泉(1974), p355-356.
  47. ^ 西脇(2001).
  48. ^ 田谷博吉「江戸時代貨幣表の再検討」『社会経済史学』第39巻第3号、社会経済史学会、1973年10月、261-279頁、doi:10.20624/sehs.39.3_261ISSN 0038-0113NAID 110001215475  p.23-24 より
  49. ^ 青山(1982), p89.
  50. ^ 三上(1996), p66-68.
  51. ^ 小葉田(1999), p84-87.
  52. ^ a b 久光(1976), p201-207.
  53. ^ 明治四年法令全書 明治4年5月10日 太政官布告第267(新貨條例)、コマ番号151/514、p.229、日本量目、一戔、三七五六.五七四ミリガラム 三.七五六五七四ガラム
  54. ^ 小泉(1961), p.50
  55. ^ 明治四年法令全書 明治4年9月13日 太政官布告第462号、コマ番号210/514、p.346、「違算ノ廉及ヒ衍文モ有之ニ付左ノ通更正相加ヘ候事」、日本量目ガラム「ゲレイン」比較表ノ内 ガラム、三七五六五七四 → (最後の2桁が)二一 と訂正されている。
  56. ^ 小泉(1961), pp.50-51
  57. ^ 法令全書.明治24年 法律 p.2 コマ番号9/609 「第二條 度量衡ノ原器ハ(中略)分銅トス(中略)分銅ノ質量四分ノ十五ヲ貫トス」、p.6 コマ番号11/609 「第五條 匁 三.七五000グラム」、国立国会図書館デジタルコレクション
  58. ^ 小泉(1961), pp.65-66
  59. ^ a b 度量衡令 付表
  60. ^ a b c 単位の辞典.
  61. ^ WEIGHTS AND MEASURES ACT (CHAPTER 349) THIRD SCHEDULE Section 40 CUSTOMARY WEIGHTS


「匁」の続きの解説一覧




匁と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「匁」の関連用語

匁のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



匁のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの匁 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS