久間章生 政治姿勢

久間章生

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/19 09:35 UTC 版)

政治姿勢

イラク戦争

2006年12月8日真珠湾奇襲の日)の午前の記者会見で、前日(12月7日)の参院外交防衛委員会において「小泉純一郎前首相がイラク戦争を支持したのは非公式」とした自らの発言について「不勉強で間違いだった」と訂正し、撤回した。内閣総理大臣(当時)小泉は開戦時に緊急記者会見して「武力行使を理解し、支持する」と表明、首相談話も閣議決定していた。なお、上記の訂正記者会見においても、久間自身はイラク戦争を支持しないことを明言している。防衛庁長官を2回務めた政治家であるが、イラク戦争については戦争の大義に懐疑的な認識の持ち主であった。

2007年1月25日には、「日本記者クラブ」における会見で「イラク大量破壊兵器があると決め付けて戦争に踏み切ったブッシュ大統領の判断は間違いだった」と述べた。イラク戦争を支持している第1次安倍内閣において、久間の発言は閣内不一致であるとの批判がなされたが、内閣官房長官塩崎恭久は「久間氏の個人的な、閣僚としてではなくいち政治家としての意見であり、閣内不一致ではない」と強調した。政権側は大統領批判ではないと釈明した。1月29日午後衆議院本会議において、民主党の松本剛明にこの点を追及された久間は「(開戦)当時、閣外にあって感じた感想として述べたもので、防衛相としては(米国支持の)政府の立場を支持している」と釈明した。

同年2月22日の衆議院安全保障委員会では、「閣僚は他国にどういう形で伝わるかも計算した上で言わなくてはならない。(ブッシュ大統領の)教書演説が発表された日に、そう言ったこと自体が配慮に欠けていた。反省している」と答弁した。この発言については米国から日米同盟を損なうという抗議が来たほか、米国務省日本部長のジェームス・ズムワルトは「大統領を批判するような発言が繰り返されれば、日米安全保障協議委員会(2プラス2)の日程設定が困難になりかねない」と批判。米国は日米安全保障協議委員会の開催に当分応じない見込みと報じられた。軍事ジャーナリスト神浦元彰外務省が米国の意向を先回りして、そのように伝えたのではないかとする説を出した[5]

一方で、「既に明らかになりブッシュ大統領も認めているが、開戦の大義であった大量破壊兵器はイラクには存在しなかった。(それなのにイラク戦争を批判したところで)そのことで米側から抗議を受けるものだとはとても思えない」などの反論もある[6]。自民党内では、加藤紘一が久間を擁護し、「なぜ批判を受けなければならないのか。(イラク戦争開戦の誤りは)世界の常識だ」と政府側に詰め寄ったという[7]

沖縄米軍基地

イラク戦争については米国を批判したが、他方在日米軍については、米国に協力的であった。しかし2007年に入り、「アメリカは沖縄の人々の気持ちを理解してくれていない」と米国の意に反する発言をしたため、来日したチェイニー副大統領との会談を拒否される事態となった。チェイニーは自衛隊の最高責任者である久間を無視して、自衛官(制服組)トップの齋藤隆統合幕僚長を始めとする自衛官幹部と会談した。

2006年10月、沖縄県米軍嘉手納基地に、米軍がパトリオット地対空ミサイルシステム (PAC-3) 配備を強行した。久間は11月7日の衆議院安全保障委員会の答弁で「今北朝鮮ミサイルの実験をやった、核実験をやった、そういう中で、パトリオットをせめて沖縄に配備しておかなければいかぬ(中略)我々としては素直に、これは、日本の防衛の中で手薄である沖縄については、せめて嘉手納を、自分の基地があるわけだから、そこについてはアメリカが責任を持って防御しましょうということでまずやってくれたということは、私は歓迎すべきことじゃないかなと思う」と述べた。沖縄では基地機能の強化・新たな負担増・格好の軍事標的にされるなどの理由で反対が強く、久間の発言は反発を受けた。

11月19日投開票された沖縄県知事選では、与党推薦の仲井眞弘多が米軍普天間基地の県内移設に反対する糸数慶子を破り当選した。共同通信によると、久間は11月23日長崎市内で開かれた自民党議員らの会合で、もしも糸数が当選していた場合、「法律を作ってでも、一方的に県知事の(公有水面の)使用権限を国に移してでも、やらなければいけないと考えていた。もし負けたら、力尽くでもこっちはやるんだという腹を持っていた」と述べた。基地移設には埋め立てが必要で、そのためには公有水面埋立法に基づき知事の許可が必要である。移設反対派が勝った場合、強硬手段によって(『読売新聞11月24日号によると、特別措置法を制定し、知事の許認可権を政府に移す予定であった)ことを進める方針だったのである。

2007年1月27日、長崎県諫早市での講演で普天間飛行場移設問題に触れ、「私は米国に『あんまり偉そうにいってくれるな。日本のことは日本に任せてくれ』といっている」と発言した。さらに、アメリカが推進する沿岸案実現には沖縄県知事の公有水面埋立許可が必要であることを念頭に置いてか、「米国は『政府同士が決めたのだから、それでやったらいいじゃないか』というが、日本はけっこう地方分権になっている」、「仲井眞弘多沖縄県知事の意見も聞き入れながらやっていかなければならないが、米国は根回しがわからない」と発言した[8]塩崎恭久内閣官房長官はこの発言について「問題があれば注意する」と述べた。米国側は「当方も海兵隊を説得するのが大変だった。話し合って合意した政府間の取り決めは守ってくれねば困る」と不快感を表明している。

元外交官で、政府批判を行う作家としても知られる天木直人は、久間の頭越しに自衛官幹部との接触を表明したチェイニー及び米国の対応はシビリアンコントロールに反しており、外務省はこのような日程を断じて認めてはならないと自身のブログで批判した[9]。しかし、訪日したチェイニーは、当初の予定通り自衛官幹部のみと懇談した。


注釈

  1. ^ 綿貫民輔衆議院議長が「起立総員」と宣言したことにより、議事録上は全会一致として扱われている。
  2. ^ 日本が戦後、ドイツのように東西が壁で仕切られずに済んだのは、ソ連の侵略がなかったからだ。米国は戦争に勝つと分かっていた。ところが日本がなかなかしぶとい。しぶといとソ連も出てくる可能性がある。ソ連とベルリンを分けたみたいになりかねない、ということから、日本が負けると分かっているのに、あえて原爆を広島と長崎に落とした。8月9日に長崎に落とした。長崎に落とせば日本も降参するだろう、そうしたらソ連の参戦を止められるということだった。幸いに(戦争が)8月15日に終わったから、北海道は占領されずに済んだが、間違えば北海道までソ連に取られてしまう。その当時の日本は取られても何もする方法もないわけですから、私はその点は、原爆が落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだ、という頭の整理で今、しょうがないな、という風に思っている。米国を恨むつもりはないが、勝ち戦ということが分かっていながら、原爆まで使う必要があったのか、という思いは今でもしている。国際情勢とか戦後の占領状態などからいくと、そういうことも選択肢としてはありうるのかな。そういうことも我々は十分、頭に入れながら考えなくてはいけないと思った。

出典

  1. ^ a b 役員略歴 社外取締役 監査等委員 久間章生”. 昭和ホールディングス. 2023年10月7日閲覧。
  2. ^ 防衛庁長官内閣官房内閣広報室
  3. ^ 防衛相、日米同盟強化で重み - 日本経済新聞 2019年8月6日
  4. ^ 羽田元首相、倍賞千恵子さんら4099人受章”. 産経新聞 (2013年4月29日). 2023年2月7日閲覧。
  5. ^ J-rcom 日本軍事情報センター:「読売記者に機密漏洩」の節”. 2007年7月23日閲覧。
  6. ^ 沖縄タイムス社説 2007.1.29日付朝刊
  7. ^ 久間防衛相:普天間巡る「反米的発言」が波紋広げる(『毎日新聞』 2007年2月1日付)
  8. ^ 第166回国会 衆議院 安全保障委員会 2号(平成19年(2007年)2月22日)” (2007年2月22日). 2007年7月23日閲覧。
  9. ^ チェイニー副大統領の訪日報道から目を話してはならない」(天木直人のブログ)” (2007年2月18日). 2007年7月23日閲覧。
  10. ^ 沖縄タイムス』 2006年12月8日
  11. ^ a b “「不謹慎だが感じた」防衛相、重ねて選挙制度の問題言及”. 朝日新聞. (2007年4月18日). http://www.asahi.com/special/070417a/TKY200704180101.html 2010年10月26日閲覧。 
  12. ^ “期限付き補充立候補、選挙直前できず…公選法の不備が浮上”. 読売新聞. (2007年4月18日). http://www.yomiuri.co.jp/election/local2007/news/20070418i204.htm 2010年10月26日閲覧。 
  13. ^ “久間防衛相、長崎市長銃撃事件で失言”. AFP通信. (2007年4月18日). https://www.afpbb.com/articles/-/2212983?pid=1522052 2010年10月26日閲覧。 
  14. ^ https://web.archive.org/web/20070702165614/http://www.asahi.com/politics/update/0630/TKY200706300263.html
  15. ^ a b 原爆投下「しょうがない」発言 久間氏が陳謝、撤回” (2007年7月2日). 2009年12月30日閲覧。
  16. ^ 「発言撤回」で着地 長崎市議会が意見書可決” (2007年7月3日). 2009年12月30日閲覧。
  17. ^ 「田上市長ら直接抗議 久間氏「迷惑掛けた」” (2007年7月3日). 2009年12月30日閲覧。
  18. ^ a b 県議会も抗議決議” (2007年7月4日). 2012年8月28日閲覧。
  19. ^ 無念のぞかせ釈明 久間防衛相辞任” (2007年7月4日). 2012年8月28日閲覧。
  20. ^ a b 久間防衛相が辞任 原爆「しょうがない」発言で引責” (2007年7月4日). 2012年8月28日閲覧。
  21. ^ 広島市/久間防衛大臣の発言に対するコメント(2007.6.30)” (2007年6月30日). 2011年8月6日閲覧。
  22. ^ 「あまりに非常識」原水協被団協 久間氏原爆容認発言” (2007年7月1日). 2009年12月30日閲覧。
  23. ^ 連合長崎なども抗議” (2007年7月1日). 2009年12月30日閲覧。
  24. ^ a b 「被爆者ないがしろに」原水禁” (2007年7月2日). 2009年12月30日閲覧。
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  26. ^ 被爆者ら抗議の座り込み 久間氏発言、批判さらに広がる” (2007年7月3日). 2009年12月30日閲覧。
  27. ^ 共産党県委など辞任求める声明” (2007年7月3日). 2012年8月28日閲覧。
  28. ^ 2007年7月2日付 産経抄(産経新聞)
  29. ^ a b c 久間氏「原爆投下しょうがない」 ソ連参戦阻止と見解”. 長崎新聞 (2007年7月1日). 2016年10月4日閲覧。
  30. ^ 「しょうがない」は「九州弁」 久間氏のトンデモ弁明(J-CASTニュース)” (2007年7月4日). 2007年7月23日閲覧。
  31. ^ 2007年7月3日記者会見「久間防衛大臣の発言に関して」” (2007年7月3日). 2011年8月7日閲覧。
  32. ^ a b c d 「当然」「選挙対策だ」 被爆地の怒り収まらず” (2007年7月4日). 2009-12-30 日閲覧。
  33. ^ a b c 無念のぞかせ釈明 久間防衛相辞任” (2007年7月4日). 2012年8月28日閲覧。
  34. ^ 久間氏は議員辞職を 長崎県原水協が抗議デモ” (2007年7月6日). 2009年12月30日閲覧。
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  36. ^ 質問状に対して、回答 をしたものの被爆者団体は納得していない。(出典:久間氏が「しょうがない」発言質問に回答 被爆者団体「憤り」” (2007年8月3日). 2012年8月28日閲覧。
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  38. ^ a b 「論外」「許されない」 久間氏原爆容認発言で被爆地に怒りと失望” (2007年7月1日). 2012年8月28日閲覧。
  39. ^ 長崎新聞 寄稿 原爆は戦争を終わらせたか <上>” (2007年8月3日). 2010年5月4日閲覧。
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  41. ^ 「補助金受けた法人首相ら4人に献金」『日本経済新聞日本経済新聞社、2007年3月8日、43面。
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  43. ^ 毎日新聞2001年6月7日
  44. ^ 「久間元防衛相に3700万円賠償命令 ダイヤモンド返還訴訟」産経ニュース2014.1.29 21:40  url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140129/trl14012921420006-n1.htm
  45. ^ 「久間氏代表の団体、東電賠償巡り詐取容疑 元幹部ら逮捕」朝日デジタル2014.8.2 14:00  url=http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140802-00000023-asahi-soci
  46. ^ “元公設秘書の男逮捕 詐取金を不正引き出し容疑”. 産経新聞. (2019年2月14日). https://www.sankei.com/affairs/news/190214/afr1902140016-n1.html 2019年2月14日閲覧。 
  47. ^ 久間和生氏(2) 算数が得意、理系を意識 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)理事長 イノベーション生む国へ日本経済新聞2021年6月25日 4:30
  48. ^ 「パチンコ・チェーンストア協会」(PCSA) 理事・会員リスト”. 2007年7月23日閲覧。
  49. ^ 農畜産工業雇用推進機構・役員構成”. 2012年6月15日閲覧。






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