フェーズドアレイレーダー 特徴

フェーズドアレイレーダー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/02 13:16 UTC 版)

特徴

上記のような技術を用いることで、設計の複雑性や高価格化というデメリットを負う反面、下記のように多くのメリットを得ることができる[3]

多機能同時処理の実現
ビーム走査は全て電子計算機を用いて行うため、ABF方式でも、従来のレーダーと比べるとはるかに高速かつ多様な動作を実現できる[3]。例えば捜索範囲内に複数の目標を探知した場合も、対空捜索と追尾を時分割で切り替えることで、複数目標に対する同時捜索・追尾(Multiple target track, MTT)を実現できる[3]。また従来のレーダーでは追尾目標の有無に関わらず一定速度でビーム走査を行っているのに対し、フェーズドアレイレーダーでは、高速ビーム制御を利用して追尾目標へ重点的に送信電力を放射して、最適配分を実現できる[3]
可動部分や電子管の排除
フェーズドアレイレーダーでは、移相器を制御して電波ビームを二次元に走査可能であるため、捜索・探知・追尾の基本機能を達成するための機械的回転機構が不要となり、信頼性の向上や小型軽量化を期待できる[3]。また回転する部分がなくなることは、アンテナ部分のレーダー反射断面積の低減にもつながる[3]。一方、運用要求や費用対効果等の観点から、機械的回転機構を有するように設計することもできる[3]
また特にAESA式アンテナの場合、送信部に半導体増幅器を使用することによって、システムから電子管を排除して半導体集積回路のみで構成でき、更なる信頼性の向上や小型軽量化を期待できる[3]
電波ビーム形状変更の容易性
優れたビーム形成能力を生かして、捜索・探知・追尾の各機能ごとに適した形状のビームを形成することができる[3]。例えば捜索モードでは垂直方向は広く水平方向は狭いファンビームを用いつつ、追尾モードではビーム幅を絞ったペンシルビームへと瞬時に切り替えることができる[3]。また移相器の制御によってサイドローブのパターンも自由に変えることができるので、送信時と受信時のサイドローブのパターンを変えることで大幅に抑圧することができる[3]
データ取得率の向上
高速ビーム走査制御によって、まず高PRF送信による速度探知モードで遠距離目標を捜索・探知した後にFMレンジングによって距離探知を行うことで、S/N比の確保と探知距離の延伸を両立させることができる[3]。また上記の時分割処理によるMTT機能のほか、送信ビームを高速・任意に走査できる特性を生かして、対空目標捜索と対地・水上目標捜索を同時に行うこともできる[3]
リアクション・タイムの短縮
艦載レーダーの場合、船体の動揺によってビームの指向方向が変化し、精度の低下などにつながることから、従来は機械的にアンテナをスタビライズする必要があったが、フェーズドアレイレーダーでは電子的にビームの空間安定化が可能であるため、極めて短時間にビームを所定の方向に指向でき、リアクション・タイムの短縮が可能となる[3]
電子防護能力の向上
上記のように、フェーズドアレイレーダーではサイドローブのパターンを自由に変えることができるという特性を生かして、妨害の影響を排除するように制御することができるほか、メインローブ方向からの妨害波に対してはビームを集中して探知能力を改善することもできる[3]
また特にAESAでは、アンテナ素子ごとに発射される電波の周波数を変えて、出力の弱い[注 1]様々な周波数帯の電波を様々な走査方向やパターンで発射することが可能であり、目標から反射して戻ってくるこれらをすべて受信して集めてコンピュータで処理することで目標を探知する。また、様々な周波数帯の電波を発射する[注 2]というスペクトラム拡散の機能は、周波数も広範囲に広がり、電波出力が小さいため、被探知の可能性を少なくすることができる[8]
抗堪性の向上
通常のフェーズドアレイレーダーは少なくとも数百、多くは千以上のアンテナ・モジュールで構成されているため、モジュールのうち一部が損傷を受けても、その損傷率が10%程度以下であれば性能劣化は軽微で、ほぼ正常の運用が可能である[3]

注釈

  1. ^ 直接スペクトラム拡散。ひとつの電波を広い帯域に拡散し、それを集めるため非常に少ない出力でレーダー探知を行える。
  2. ^ 周波数ホッピング方式スペクトラム拡散
  3. ^ 方位角方向の走査は位相走査式であったが、俯仰角方向の走査は周波数走査式で行っていた[2]

出典






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