ハーブ ハーブの概要

ハーブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/26 00:45 UTC 版)

タイムオレガノローズマリー

ハーブは「」あるいは「野草」、「草木」を意味するラテン語: herba を語源とし、フランス語でherbe(エルブ)、古英語でherbe(アーブ)となり、これが変化して英語のherbとなり[1]、日本に伝わってハーブという言葉が使われるようになった。

概説

ハーブガーデン、ベルギーのベールネム

一般にハーブという場合、ヨーロッパで伝統的に薬草や料理、香料、保存料として用いられた植物を指す。香り辛味苦味などの風味を楽しむために用いられるキッチンハーブを指すことが多い。生または乾燥させたものを、薬味ハーブティーなどに用いた。近世まで、病気の原因はミアスマ(瘴気、悪い空気)であると考えられていたため、強い香りで病気を防ぐために、匂い袋(サシェ)、匂い玉(ポマンダー)、ハーブ、香油、芳香蒸留水精油なども利用され、ポプリなどの形で香りが楽しまれた[3]

元来ハーブとは「薬草」を意味する薬理分野における部類の一つであり、食用にすると有毒となるいわゆる有毒植物も「有毒ハーブ」[注釈 2]として分類されている[4]。語源からすると、元々木本植物は有用植物ではあってもハーブではなかったと思われるが、現在ではローズマリーローリエ等、木本植物であっても、一般にハーブとして扱われる物も多い。日本では、言葉の定義でスパイスとの混乱も見られるが、スパイスは料理の風味づけや色づけに使われる香辛料であり、その中にはハーブに分類される植物も見られる[4]

野菜穀物果物などと区別されるが、伝統的な西洋医学の主な治療は食事療法であり[5]キャベツタンポポのように、薬用・食用両方に使われたものも少なくなく、明確な区別は難しい。ローズヒップ(バラの果実)の様に、その実や花弁等の有用部分のみを指してハーブと呼ぶものもある。一般的な植物名とは別に、ハーブ等として利用する時に使用される固有の名前を持つものも多い。

また、ネイティヴ・アメリカンが伝統的に治療に使った植物(エキナセアなど[6])のように、ヨーロッパ以外でハーブ同様に使われた植物で、欧米で利用されるようになったものもハーブと呼ばれており、中国医学漢方医学で使う生薬でハーブと呼ばれるものもある。

ハーブの利用法

次のように利用できる有用植物がハーブと呼ばれた[1]

  • 内服薬・外用薬として利用できるもの。
  • 防臭・防腐・防虫などに役立つ植物。
  • 芳香があり、その香りに鎮静作用や興奮作用などがあるもの。

西洋では様々なハーブ、香辛料が料理に利用された。胡椒などの香辛料は、保存料・香り付け・薬として重宝されたが、交易で遠方からもたらされるため高価だった。民衆は、身近で手に入る香りあるハーブ、防腐作用を持つハーブを料理・保存に利用した。

胡椒の代わりに使われたマメグンバイナズナは、イギリスでは「貧者の胡椒」と呼ばれている[7]。フランスのプロヴァンス地方で料理に使われたハーブに想を得た業者により、セイボリーフェンネルバジルタイムラヴェンダーなどのハーブをブレンドしたものがエルブ・ド・プロヴァンスの名で販売されている。フランス料理では、パセリチャイブタラゴン、タイムなどの生のハーブをみじん切りにしたものが多用され、フィーヌゼルブフランス語版と呼ばれる[8]。フランスの煮込み料理の香り付けには、パセリ、タイム、ローリエエストラゴンなど数種類のハーブを束ねたブーケガルニが使われる。

ヨーロッパ各地に、ハーブを主な材料とするグリーンソース英語版が存在する。イタリアでは、すりつぶしたパセリ、ケッパーニンニクタマネギアンチョビオリーブオイルマスタードなどを混ぜて作るソースをサルサヴェルデという。ドイツ・ヘッセン州ではグリューネ・ゾーセ(Grüne Soße または Grüne Sosse)が有名であり、ルリジサスイバコショウソウチャービルチャイブ、パセリ、およびサラダバーネット英語版などの7種類の生のハーブを刻み、サワークリーム・レモン汁を混ぜたソースに、固ゆで卵・じゃがいもなどを添えて食べる。このように、ヨーロッパではハーブは料理によく利用され、相互に影響を受けながらも地域によって特色がある。

ハーブ抽出物の中には、サプリメントとして利用されるものもある。また現在では、植物の香りの薬効が研究されており、ハーブなどを水蒸気蒸留した精油アロマテラピー(芳香療法)に用いられている。


注釈

  1. ^ イギリス英語英語発音: [ˈhɜːb] 「ハーブ」、アメリカ英語では 英語発音: [ˈɚːb] 「アーブ」
  2. ^ 使用や栽培に許可が必要なものもある。
  3. ^ 入浴はペスト流行の際、水の利用が忌避されるようになり、その影響で行われなくなった。

出典

  1. ^ a b c 永岡治 著 『クレオパトラも愛したハーブの物語 魅惑の香草と人間の5000年』 PHP研究所、1988年
  2. ^ a b c A.W.ハットフィールド 著 『ハーブのたのしみ』 山中雅也・山形悦子 訳、八坂書房、1993年
  3. ^ 熊井明子 著 『愛のポプリ』、講談社、1984年
  4. ^ a b 武政三男『スパイス&ハーブ事典』文園社、1997年1月10日、21頁。ISBN 4-89336-101-5 
  5. ^ 久木田直江 (2009年2月). “中世ヨーロッパの食養生”. 2014年11月21日閲覧。
  6. ^ 植松黎 著 『自然は緑の薬箱―薬草のある暮らし』、大修館書、2008年
  7. ^ a b ヨハン・ベックマン 著 『西洋事物起源(二)』 特許庁内技術史研究会 訳、岩波書店、1999年
  8. ^ Julia Child, Mastering the Art of French Cooking vol. I p 18.
  9. ^ “【厚労省】西洋ハーブ製剤の承認申請‐海外データ活用を容認”. 薬事日報. (2007年3月28日). http://www.yakuji.co.jp/entry2615.html 2015年10月1日閲覧。 
  10. ^ 内田信也、山田静雄「食品・サプリメントと医薬品の相互作用」 (PDF) 『ぶんせき』2007年9月、454~460頁
  11. ^ a b 本多義昭 著 日本薬学会 編集 『ハーブ・スパイス・漢方薬―シルクロードくすり往来』 丸善、2001年
  12. ^ 遠山茂樹, 「読書案内 マーガレット・B・フリーマン著 遠山茂樹訳『西洋中世ハーブ事典』八坂書房」『東北公益文科大学総合研究論集 : forum21』 16号, p.a41-a51, 2009年, NAID 120005669882
  13. ^ ヴォルフ=ディーター・シュトルル 『ケルトの植物』 手塚千史 高橋紀子 訳、ヴィーゼ出版
  14. ^ マーガレット・B. フリーマン 著 『西洋中世ハーブ事典』 遠山茂樹 訳、八坂書房、2009年 25頁
  15. ^ リキュール入門 1.リキュールとは 語源サントリー
  16. ^ リキュール入門 1.リキュールとは 歴史サントリー
  17. ^ 永岡治 著 『クレオパトラも愛したハーブの物語 魅惑の香草と人間の5000年』 PHP研究所、1988年
  18. ^ ヒロ・ヒライ 著 『エリクシルから第五精髄、そしてアルカナへ: 蒸留術とルネサンス錬金術』 Kindle、2014年(初出:「アロマトピア 第53号」 2002年)
  19. ^ ジョージ・ウルダング 著 『薬学・薬局の社会活動史』、清水藤太郎 訳、南山堂、1973年


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